ケルベロス・ウォー⑥〜 医の砦たる双天使を守れ!
大きなクレーターとなって抉れた跡が残るコンクリートの路面を、一台の車両が小石を踏み砕きながら疾走し、上空から降り注いだ炎によって勢いよくビルへと追突する。
キャンピングカー程の大きさをした車の側面には、戦場でも目立つ様にと医療に関する車両である証が大きく刻まれており、おおよそ戦場の救急車と言っても過言ではない。
「……無事ですか」
「はい、姐さん。でも……」
その運転手と後部ドアから出た来たのは、動きやすい飾り気の無い簡素で清潔感のある服装の上から自衛用の武具を身に付けたオラトリオの少女。
だが、その衣装は血に汚れていて、留め具のベルト等も一部が千切れかかっている。
その理由は彼女達の体を見れば明白だ。
脇腹や肩と言った体の一部分は抉れており、傷口によっては骨すら見える様な状態なのである。
だが更に奇妙なのは透明な体が痛ましい傷口を埋める様に嵌っており、それが少女達の命を何とか繋いでいるも明白であった。
心霊治療士。エクトプラズムで疑似肉体を造り外傷を塞ぐ「心霊手術」の使い手。
彼女達の傷を塞ぐのは彼女達の治療の跡であった。
そして。彼女達を此処まで追い詰めた存在が群れを成して集まってくる。
まるで悪趣味な狩りで獲物を追い詰めたとばかりに残忍な笑みを浮かべ、何十体もの数を為して大きく捻じれた角を持つ男性型のデウスエクスが少女達を取り囲む。
「こんな所で立ち止まっている訳には」
「まだ、私達の手を必要とする患者が居るのに」
己の危機すら些末な事とばかりに捉える彼女達だが、最早命運は乏しいと言うよりほかになく。
それが意味する所は。
此処まで戦場を支えてきた医療の砦が崩壊する事の暗示に違いなかった。
「そういう訳でさ。助けて欲しいんだよね」
己の予知を集まった猟兵達に話したシーネ・クガハラ(ただいまB級テンペストプレイヤー・f01094)は、飄々とした態度ながらも一刻の猶予も無いと続ける。
「状況もそうだけど、心霊治療士さんの体も限界に近いからさ。治療するか、二人が治療する時間を稼いでも貰いたいのよね。更に言えば激突した車両も修理しないといけないし、何なら近くに治療が必要な怪我人も居るから……ひとまとめに言えばやる事はたくさんあるって事よ」
とはいえ、何から何までやる必要はないとシーネは語る。己の得意分野を生かして、少しでも状況を良い様に持っていけば、彼女達は危機を脱出できるし、そうなれば周りの怪我人等も彼女達が治療するだろうとの事である。
「敵の名前はグラビーチェリ。略奪者の名を持つデウスエクスだね。執拗に狙った獲物を追い詰める傾向が有るから、心霊治療士さんの事をしっかり守ってあげてね?それじゃあ行ってらっしゃい。心霊治療士の事もそうだけど、誰も怪我しないで帰って来てね?」
風狼フー太
戦場であるからこそ、治療の献身が必要なのだ(ギュッ)
お久しぶりでございます。風狼フー太でございます。
プレイングボーナス……心霊治療士を守って戦う/心霊治療士の治療行為を手伝う。
今回のプレイングボーナスは此方になります。
迫りくるデウスエクスの群れを蹴散らしたり、心霊治療士である二人のオラトリオの少女の事を助ける事が出来ればシナリオを有利に運ぶことが出来ます。
治療行為を手伝いですが、彼女達の傷を治療する他にも。
車両の修理をする。
姉妹の傷を癒す。
近くにいる患者を治療or少女達へと運ぶ。
事でも達成できますし、此処に書いてある事以外でも治療行為の助けに成っていると判断できればプレイングボーナスを贈呈します。
☆心霊治療士について。
オラトリオの姉妹で名前を聞かれれば姉の方は「カエラ」妹の方は「カドリー」と名乗るでしょう。
二人共、一人でも多くの怪我人を救う事を使命としており無愛想に見えるかもしれませんが、誰かを助けようとする心と心霊治療士としての腕前は信用して問題ありません。
反面、戦闘能力は乏しいので彼女達だけではこの危機を乗り越える事は出来ません。
皆さんの助けを必要としていますので、応えていただければと思います。
説明は以上となります。それでは素敵なプレイングをお待ちしておりますね!
第1章 集団戦
『グラビーチェリ』
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POW : 略奪せし骨剣の一撃
【骨剣】で攻撃する。また、攻撃が命中した敵の【顔】を覚え、同じ敵に攻撃する際の命中力と威力を増強する。
SPD : 脈動する勇者の鱗
全身を【かつてドラゴニアン達から奪った鱗】で覆い、自身が敵から受けた【怒り】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。
WIZ : 解放されし妄執の吐息
【炎のブレス】が命中した対象を爆破し、更に互いを【炎の鎖】で繋ぐ。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
ウィル・クーパー
カエラとカドリーだな。俺はウィル、よろしく!
俺は2人見たいに誰かを癒す事は出来ないし車も直せないから、とりあえず時間稼ぎしてくるな。
相手を煽り、攻撃しつつ2人の元から離脱
ユーベルコードで2人や怪我人たちを守るようにサイキックワイヤートラップを張り巡らせながら人気がない建物の屋上へ。一応遠くから2人の様子は見えるように。
サイキックワイヤートラップにぶつかった相手を全てワープサイキックで自分の元へ引き寄せてからぶん殴る!
出来るだけ爆発&ワープで混乱させた隙を逃さないよう速攻で。
相手の攻撃が弱まり、余裕が出来たら一旦戻って怪我人を集めつつ防衛のトラップを強化していくぜ。
※アレンジ歓迎
「ストーカー変態デウスエクス共!こっち向きやがれ!」
二人のオラトリオの少女に群がるデウスエクスを見るなり、ビルの上に立つウィル・クーパー(歪みで殴る・f45230)が開口一番そう叫ぶ。
「てめえらの相手は俺がしてやるよ。掛かって来な!」
手を握って前に出し煽るウィルの言葉に、始めは顔を向けていたデウスエクス達は、改めて少女達へと向き直る。
明らかな挑発だと分かっているのか、それともそれ程の執着心をオラトリオの少女に向けているのかは分からないが。
「あっそう。無視ね?随分粘着質だな」
何事も無かったかの様に、再びオラトリオの少女に襲い掛かるデウスエクスへ。
「だったら遠慮はしねぇ!」
ウィルがそう口にした瞬間。二人のオラトリオを守る様に淡く光るサイキックのワイヤーが次々に地面から空に向かって伸び、少女達を襲おうとしたデウスエクス達を絡めとる。
ビルの上から気付かれない様に地面の下から伸ばした、実体のないワイヤー。
それを手繰る様に引っ張ると、デウスエクス達はウィルの元へ瞬間移動。無防備に彼の間合いに引き寄せられたデウスエクス達は、今度は強烈なアッパーカットの衝撃を受け空へ吹き飛ばされてゆく。
「吹っ飛べ!!」
更に彼等と自分を繋ぐワイヤーに強力なサイキックを流し込み、次々にデウスエクス達を爆破してゆくウィル。
花火、と言うには華やかさはないが少女達の命運を救った祝砲には違いなく。
一先ず少女に襲い掛かっていた敵を退けたウィルは二人の元へと駆け寄った。
「大丈夫か?別の場所に引き付けたかったんだが、随分とアンタらにご執心だな。名前は?」
「カエラです」
「カドリーです。助かりました猟兵様」
「カエラとカドリーだな。俺はウィル、よろしく!」
表情や感情はきわめて冷静ながら、感謝の意図を伝える二人に、安心させる様にウィルは満面の笑みを作る。
それはもう誰も失わせないという覚悟と、誰かを守れたという安堵に他ならない。
(俺の目の前で、もう誰も死なせないからな。覚悟しろよクソデウスエクス!)
自分に誰かを守れる力が有る事を改めて確認したウィルは一人、改めて己の意思を強く胸に誓うのだった。
大成功
🔵🔵🔵
天御鏡・百々
なんと、これは大変だ!
すぐに治療しなければならぬ
本体の神鏡から聖なる光を放ち
『生まれながらの光』で心霊治療士の二人を治療するぞ
周りの怪我人も治療したいところだが……
これ以上我が疲労するのもまずそうか
そちらは<医術><救助活動>での応急処置に留めて
本格的な治療は回復した二人に任せるとしよう
ある程度治療を進めるかデウスエクスが襲ってきたら
『グラビーチェリ』との戦闘に向かうぞ
炎のブレスを『神通力』の障壁<オーラ防御>で防ぎ
『天之浄魔弓』より放つ光の矢で反撃だ
「スマネェな嬢ちゃん」
「構わぬ。人は助け合ってこそであろう?」
足を引きずり歩くケルベロスを名乗る負傷者の男に肩を貸す天御鏡・百々(その身に映すは真実と未来・f01640)
いたいげな少女の姿をした彼女に感謝の言葉を述べるが、その顔には負傷し役に立てない悔しさがにじみ出ている。
(この者の怪我も癒したいのだがな……)
先程の戦いでデウスエクスの姿は確認できない。その間に見つけた負傷者を二人に連れて行く事にした百々の顔にも苦虫をかみつぶした様な顔が映りこんでいる。
ユーベルコード『生まれながらの光』を使えば、この物の怪我を直すのは容易い。
だが今後デウスエクスに襲われる可能性と、少女達の予知具合と彼女達が治療出来る事を考えれば、何方を治療するべきかは明白だ。
一応の応急処置だけを行い治療できる者に心当たりが有るとだけ言って共に歩く二人の前に。
「怪我人ですね?どうぞ此方へ」
自らの怪我を押した、二人のオラトリオの少女が出迎える。
「いや、アンタらの方が……」
「構いません。貴方の命を救う事が先決ですから」
二人の負傷具合に思わずギョッとする男を有無を言わせず寝かせた少女達は、すぐさま男の治療へと移る。
そして何時襲われるか分からない状況であれば時間は有効に使った方が良いと、百々も『生まれながらの光』で二人の傷を癒してゆく。
「猟兵様、私共の怪我は後回しで」
「そうは言うが、大変だ怪我だぞ!すぐに治療するから待っておれ」
治療の手を止める事無く、顔を向ける事も無く。苦言を呈する二人だが百々の意思は固い。
やがて百々の顔に疲労の色が浮かび、少女達と男の体が幾分かまともな物になってきた頃。
幾つもの空気を切る羽音が空から聞こえてくると共に、百々は本体である『天神鏡』を空へと向けた。
「そうはさせぬぞ!」
百々が言うが否や、空から降り注ぐ炎の嵐。
再びデウスエクスの群れが、4人を見つけたのだ。
突然の奇襲を神通力の障壁で防ぐが、ユーベルコードの代償で負った疲労に脚が挫けそうになる。
だが。突然まるでシャワーで洗い流した様に。体の疲労感がスッと抜けてゆくのを百々は感じていた。
「さっきの礼だ。人は助け合ってこそだもんな?」
その原因は間違いなく、倒れて傷を癒している男のユーベルコードによる物。
不敵にニヤリと笑う男の顔に、百々も満面の笑みで応える。
「ああ、感謝するぞ。後は任せよ!」
今なら攻撃に転ずる事も出来ると鏡の下で『天之浄魔弓』を両手に構えた百々。
弦を引き絞り、朱に染まる和弓より放たれた光の矢は神通力の障壁をすり抜けた後に無数に分れ、デウスエクスを撃ち抜いて行くのであった。
大成功
🔵🔵🔵
空桐・清導
POW
アドリブ・連携歓迎
医療とは人々の命を救う御業
そして、ソレを振るう医者とはヒーローである
ではヒーローである彼らを救うのは誰の仕事か?
知れたこと!ソレは!
「頑張ったなアンタ達!そして聞こえたぜ救いを呼ぶ声が!
ヒーローを護るのもまたヒーローの仕事だぜ!」
無敵のヒーローブレイザインに他ならない!!
「まずはアンタ達を治療しないとな!
安心してくれ!オレも治癒の力を持っているんだ!」
UC発動
彼女達の不幸の源である怪我という概念を焼き尽くし、完全回復させる
「怪我人をよってたかって攻撃なんざ、このオレが許さないぜ!」
さあ、後は始末をつけるだけだ!
骨剣をへし折ってグラビーチェリ達を残らず叩き伏せる!
クローネ・マックローネ
NGなし、絡みOK、アドリブ歓迎
【POW判定】
強調したい時は「★」を、それ以外の時は「♪」を語尾につけるよ♪
守るのに頭数が必要だよね?
それなら、クローネちゃんに任せてよ!
クローネちゃん自身は【救助活動/医術/回復力/浄化】でオラトリオ姉妹の傷の治療を、【メカニック/マシン改造】で車両の修理を行うよ♪
召喚したアイスエルフちゃん達には診療所の【拠点防御】を任せるよ♪
診療所の周囲を囲むように陣取って、近寄ってくる敵を迎え撃つね♪
UCは『クローネちゃんのアイスエルフ軍団★』
アイスエルフちゃん達を召喚して、氷結輪投擲による【切断】と氷の【ブレス攻撃】で敵を寄せ付けることなく攻撃してもらうよ★
バーバラ・ナノシュタイン
アドリブ/連携可
「次の現場はここね。」
ポータブルERを展開して負傷者の治療に当たる。比較的軽傷者なら医療用ナノマシンペーストを処方、重傷者には医療ノコギリで患部を切断してから心霊治療士に回す。
「よく見たらアンタたちもズタボロじゃないの。ちょっと待ってなさい、アンタたちも治すから。」
UCを50秒きっかり発動で心霊治療士ごと患者を治療。
「医者が倒れたら救えるものも救えないの。」
霊的防護を強化しためろめろオーラを展開し、炎のブレスから車両と患者たちを守る。そして炎の鎖を逆に利用して一気に敵の懐まで接近し、鎧無視攻撃で敵を引き裂く。
「奪う者はやがて奪われる、それだけ覚えときなさい。」
「痛いよぉー!ママぁー!!」
「大丈夫よ、直にケルベロスさん達が助けてくれるからね!」
散発的に襲来するデウスエクスを退けた事が周囲に広まったのだろう。猟兵と二人の少女達の周囲に変化が少しずつ訪れていた。
怪我の痛みに無く子供をあやす母親の姿が現れたかと思えば。
「怪我をした物は此処へ!」
「我々ケルベロスが貴方達を守る!安心してくれ!」
名も知らぬケルベロスの一員が怪我人を連れて市民の保護と治療を求め。
「これだけの人数を対応するなら人手は多い方がいいでしょう?」
「炊き出しを行っております!皆さん押さないでくださーい!」
その様子を見た心ある者が手伝いを申し出た事で、更に多くの人を受け入れられる様になり。
いつしか二人の少女と猟兵達がいる場所には、人々が身を寄せ合う避難所の様な物が出来上がっていた。
野戦病院と言うには余りにも心許ない有様かもしれない。
だが此処に居るのは治癒に長けた心霊治療士に戦闘にも長けた猟兵達を含めたケルベロスに違いなく。
下手をすれば平時の病院よりも手厚い治療と支援を受けられるこの場所に、人が集まるのは当然でもあったのだろう。
その人々の最後の砦の一帯に、とある一団が配備されていた。
漆黒の肌を持ち、妙に色っぽさのあるアイスエルフの集団。
名前通り氷を得意とするようで、氷に関した武器を持つ彼女達は一人の猟兵によって生み出された存在である。
「んー、大分派手にぶっ壊れてるね★」
二人の少女が運転していたトラックの下に入り、壊れたパーツを取り替えているクローネ・マックローネ(闇ダークネスと神デウスエクスを従える者・f05148)
彼女が、先程のアイスエルフを召喚し、配備した者である。
「直るとは思うけど、今の状況だと時間がかかりそうだね♪」
明るい口調の彼女が言う通り、この一帯の負傷者や避難民が一か所に集まった状態では、やらなければならない事が多すぎた。
命に係わる怪我人の治療は第一として、それ以外の人々の命を守る為には食料や衣服が要る。
其方の調達の方に時間を取られ、少女達が使っていた車両の修理等はおざなりになってしまっていた。
なんとか時間を作ってクローネが修理をしているが、状況は芳しくない。
「修理の素材も足りないし、姉妹ちゃんの傷も治したいのだけどなー」
二人のオラトリオの少女は既に幾らかの治療を受けているとはいえ、未だに安静にしていなければならない状態ではある。
せめて、もう少し治療を受けてから活動したほうがいいと提案したのだが。
『構いません。負傷者の手当てが優先ですので』
「とか、言われちゃうし。仕事熱心なのは良いけど、あれじゃ体が持たないぞ★」
しかし、今の状況では彼女達も仕事をしなければならないのは仕方ないだろう。
未だに怪我人や避難者は集まっている。それが落ち着かない限り、息つく暇もないという物。
もどかしさは感じるが、今はただ出来る事をするしかないのだと、アイスエルフ達に警護を任せクローネは車両の修理を続けるのであった。
「次の現場は此処ね」
スーツケース状のポータブルERをベッド付き簡易無菌室に変形させたバーバラ・ナノシュタイン(マッドサイエンティストなの・f41701)
彼女の目の前に寝かされている意識の無い少年の怪我は、素人目に見ても酷く一刻も早い治療が必要なのは明らかだ。
「それじゃあさっそく」
「おい、アンタ!ちょっと待て!!」
すぐさま治療に移ろうとするバーバラを止めたのは空桐・清導(ブレイザイン・f28542)の声だった。
「何?急いでいるから邪魔をしないでくれる?」
「いや、アンタ何しようとしてるんだ!?」
「何って……」
なぜこのような事を言われているのか分からないと、手に持った医療ノコギリを清導に見える様に上に上げて応えるバーバラ。
「切った方が生存確率が上がるから切断するのよ」
「切っ……!?いや、大丈夫だ!俺も治療用のユーベルコードが使えるから、その子は任せてくれ!!」
「ああ、そう?じゃあ任せるわ。私は他の怪我人を見ているから」
別に誰かが直すなら興味はない、とばかりに。手を振って無菌室から出ていくバーバラを見送った清導は、大きく息を吐くと改めて少年の方を向き直る。
「よく頑張ったな君!今助けてやるからな!!」
痛々しい姿に心を痛めながら、掌を握りぐっと力を籠める清導。
そしてゆっくりと手を開くと掌からユーベルコードの淡い光が湧き出て、幸せを妨げる者や悪意のみを取り除く光が暖かく傷跡を包み込んで消し去ってゆく。
「……んっ……ここは?」
「気が付いたか坊や!痛い所は無いか?」
目覚めた少年がゆっくりと辺りを見渡し、体の隅々までを調べた後に清導の方を見る。
「う、うん。……お兄ちゃんが助けてくれたの?」
「ああ。俺はヒーローだからな!困っている者を助けるのは当たり前の事だ!」
そう言って少年に笑顔を見せる清導だが、その心には複雑な物が有る。
医療という人々の命を救う御業を命を賭して行う彼女達はまさしくヒーローであろう。
その様なヒーローを救うのも、またヒーローの使命である。
だが、それと同じだけ此処の人々を放っておくことはできない。
(二人共、大丈夫だろうか?)
無敵のヒーローブレイザインとして彼女達を助けたい思いはある。
心配ではあるが、治療を受けたとは聞いている。いずれ治療の機会もあるだろう。
ならば自分がやる事は一つだ。ヒーローとして助けを求める人々に応える事に他ならない。
少年を母親に元に送り届けると、再びヒーローとしての使命を果たすべく、清導は助けが必要としている者の元へと向かうのだった。
そして、世界に安息は許さぬと。この世界は今こうなのだと忘れさせない様にと。それは唐突にやって来た。
「敵襲だ!」
誰かがそう叫んだと共に、辺り一帯が騒がしくなる。
クローネの配備したアイスエルフが、ケルベロス達が迎撃する音が響き渡り。
騒ぎを聞きつけて猟兵達が外に出れば、デウスエクスの集団と戦う者達の姿が辺りに広がっていた。
「怪我人をよってたかって攻撃なんざ、このオレが許さないぜ!」
「ドンドン迎撃しちゃってアイスエルフちゃん♪」
その中には清導とクローネ、そしてバーバラの姿もある。
予め警備に回していたアイスエルフの集団はデウスエクスの剣を寄せ付ける事無く撃ち落としていき、彼女とケルベロスの警備を搔い潜り攻撃しようとする者には清導の拳が唸りを上げた。
「奪う者はやがて奪われる、それだけ覚えときなさい」
その防備を固いとみるや、かつてドラゴニアン達から奪った鱗を纏い、戦闘力を高めて突破を図るデウスエクス。
自身が敵から受けた怒りによって、手あたり次第に破壊尽くす算段であったのだろうがバーバラの纏う『めろめろオーラ』に包まれたデウスエクスからは怒りが消え去り、自身に何が起こったのかも分からないまま、四方八方から攻撃を受けてゆく。
戦い自体は、呆気ない程の圧勝と言える物だ。幸いにも死者は居ない。
だが、それでも戦いの余波は更なる怪我人を生んでおり、再び治療が必要とする人の姿もいた。
これが何度も続けば、根負けするのは此方ではないか?そんな雰囲気が漂う中で。
「問題ありません。貴方方を誰一人として、私達は見捨てません」
凛として響いたのは二人の少女達の声だ。
例え、何が有ろうと見捨てないとするその姿に、人々が歓声を上げる中で。
「はぁ……一人一人直していたら効率が悪いからね」
一人愚痴るバーバラの足元から、光り輝く領域が広がってゆく。
「きっちり50秒よ。これ以上は死ぬから」
バーバラのユーベルコードによる『強制絶対治癒領域』は1分以上の使用は毒となる。
代わりに彼女を中心とした円状の中にいる全員を高速治癒が可能であり、戦闘が終わり負傷者の増えたこのタイミングこそ、使いどころと判断したのだ。
「猟兵様……」
「お礼は結構。代わりにだけど、一息入れなさい。医者が倒れたら救えるものも救えないだけだから」
周りを見れば、先程の戦闘が嘘の様に傷を負った者は一人もいない。バーバラの治療を受けて姉妹も大方の傷が癒え始めている。
「頑張ったなアンタ達!そして遅くなったが、聞こえたぜ救いを呼ぶ声が!安心してくれ!これからは此処とアンタ達は俺が守る!」
「私も守るよー♪それに貴方達の怪我もまだ完治してないみたいだから、手が空いたら手当するからね★」
清導とクローネもまた、二人を安心させる様に改めて想いを伝えていけば。
「その……ありがとうございます。皆様」
漸く、と言うべきか。それとも今にして余裕が出てきたというべきか。
頑なに他者の傷を直そうとだけしていた少女達は、自らを案じてくれた猟兵達へと頭を下げるのであった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
佐東・充
【🍯🐰】
戦う力はなくとも
この窮地を諦めずに奔走している人々がいる
ならば私達は障害物を取り除き道を切り拓くのみです
彼女達の手当てはラビオくんに任せ
ブラッド・ガイストで変化させた二丁拳銃でグラビーチェリと対峙
心霊治療士達から狙いを逸らさせるように派手な威嚇射撃
彼女達が狙われる事があれば庇う
なにせこちらには優秀な医師が三人もいるのだから
負傷を気にする必要はなさそうだ
そうだろう?ラビオくん
私も仮にもメカニックの端くれですから
車輛の応急処置程度ならどうにかなる筈
デウスエクスを退けたらそちらを担いましょう
ラビオくんこそ…
言いかけた傍からふらつく彼をそっと支えよう
…お疲れ様
口調補足
ラビオさん以外には敬語
ラビオ・ブラフマン
【🍯🐰】
最愛の充と共に現場へ。
コレはァ…そうだね、緊急ってヤツだ。
こちらへ向いた視線には外科医だから安心して、と微笑んで。
姉妹を含め、負傷者を脳内でトリアージ。
患者が被弾しないよう留意しつつ、緊急性の高い者を最優先にUCを稼働。
患部にメスを当て、高速治療を実施。
大活躍な充の勇姿に惚れ直しちゃいそう。
でも…無茶し過ぎはダメなんだからねェ?
姉妹が患者の治療に復帰する際には優しく的確にガイドラインを。
現場が総て片付いたら
充の肩口を借りてそっと目を閉じたい。
充は頑張ってたねェ、えらァい。
俺も…無茶しちゃったかも。
血の気が引いて遠のく意識。患者達の前では絶対倒れないけど。
ちょっとだけ…甘えさせてね。
オリヴィア・ローゼンタール
全力疾走(ダッシュ)からの跳び蹴り(ジャンプ・功夫)で敵を【吹き飛ばし】て参戦
不意打ち失礼、しかし医療従事者を狙う輩に正々堂々など不要でしょう?
身に纏っているのはナース衣装
蹴り飛ばして稼いだ時間で、迅速に二人を治療する(救助活動)
簡易救急セットから外傷用の軟膏(薬品調合)を取り出して患部に塗布(医術)
我が手に宿る癒しの奇跡が、常識を超えた高速治療を可能とする(癒天使の治療)
気をしっかり
私もここでの治療を手伝います――あれを倒してから
総身に【覇気】を纏い、コンクリート塊を蹴り飛ばして牽制
砕くか避けるか、その隙に距離を詰める
ブレスを吐く寸前に顎を蹴り上げ、強制的に口を閉じさせ、口内爆破で自爆させる
ヌグエン・トラングタン
なるほど、いろいろやることがあるんだな。
なら…俺様だって、やってやる。
凍炎不死鳥がいるし、【凍炎不死鳥の解放】とでもいこうか!
そう、これで二人と近くの患者に癒しを与えられるし、あの…いけすかねぇグラビーチェリたちには足止めを与えられるってなぁ!
で、その間に俺様がそのグラバーチェリたちを殴っていけばいいだろ。
あまり俺様を舐めるなよ。この鉄壁の足止めからは、逃れさせねぇし。鉄壁+グラップルで、抜けさせもしねぇよ。
あの二人には、近づけさせねぇよ!
凍炎不死鳥も、その回復力を癒しに回してるからな。
あれから暫くして。
治療を終えた一般人達は、此処よりも比較的安全な場所に移動する事になった。
避難要請を受けたケルベロス達によって避難用の車両と、それを護衛するケルベロスも動員される。
だが、さも当然の様に。ケルベロスと車両に向けて上空から襲い掛かるデウスエクス。
そんな彼らに地面という下から銃弾の雨が降り注いだ。
「貴方達の相手はこの私です」
佐東・充(オルタナティブ・f21611)のユーベルコード【ブラッド・ガイスト】によって封印を解いた二丁の自動式拳銃『Ebony』が放つ物。
殺戮捕食態へと変貌を解けた二丁の拳銃は魔獣の咆哮が如く銃弾をデウスエクスに浴びせ、充もその勢いに逆らうことなくデウスエクスへと肉薄する。
その派手な立ち回りが、デウスエクスの気を引くが、寧ろ望む所だ。
戦う力はなくともこの窮地を諦めずに奔走している人々がいる。
それを脅かす物に、くれてやれる物が有るとしたら銃弾であり、彼等を守る為に血を流すのなら本望である。
それに、だ。
此処には優秀な医師が、少なくとも『三人』もいるのだ。
負傷を気にする必要はないだろう、と。チラリと、とある方向を見る。
(勿論、俺も優秀な外科医だから安心してねェ)
どれだけ強固な防衛網を引こうと、それでも傷を負う者がいる。
攻撃の余波でひっくり返った車両に駆け寄り、治療に奔走していたラビオ・ブラフマン(Abyssal fish・f36870)は、自身へ向いた視線に気付いて微笑みを返す。
現状は脳内でトリアージ済み。幸いにもユーベルコードさえ使えば死者が出る事は無いと判断。
「治療費ィ……なんて、言ってる場合じゃないかァ」
横転した車両の下敷きになり、脚が無残な事になっている民間人にメスを入れれば、瞬く間に元通りの脚に。
「あ、ありがとうございます!」
頭を下げて、護衛のケルベロスの元へと走る男性を見送るラビオは、ユーベルコードがもたらす疲労に、ふぅ。と息を一つ吐く。
「気をしっかり。今助けます」
「此方の対応はお任せください。他にも怪我人が居ましたら此方へ運搬を」
ふと横を見れば件の二人も、自身と同じ様に怪我人の対応に奔走している様子。
猟兵達と出会ってから、ほぼ働きづめだったはずだというのに。その顔には疲労の色一つ見せる事は無い。
(……あんなの見せられたら、俺も頑張らないとだねェ)
医療の戦いという点においては佳境は過ぎ、あとひと踏ん張りで、此処の民間人の避難は完了するのだ。
せめて患者の前で弱音は見せまいとラビオは次の怪我人の元へと向かっていた。
「不意打ち失礼!」
そして今まさに一般人を乗せる車両に向けて攻撃を仕掛けようとしていたデウスエクスの一人にナース服を身にまとったオリヴィア・ローゼンタール(聖槍のクルースニク・f04296)の強烈な飛び蹴りが突き刺さる。
「お前らは、近づけさせねぇよ!」
それに合わせる様にヌグエン・トラングタン(欲望城主・f42331)の拳が別のデウスエクスに叩きつけられる。
二者それぞれ、派手に吹っ飛び壁にたたきつけられて動かなくなった姿を見て、二人は新たな敵へと向き直る。
「あの様には言いましたが、医療従事者や民間人を狙う輩に正々堂々など不要でしょうね」
「違いねぇ!ほら来なよ。弱い物いじめばっかりしてるんじゃねーぞ」
「助かりました!皆様もお気をつけて!」
各々が戦いの構えを取る中で、先程二人に助けられた車両の運転手が一言だけ礼を言って走り去ってゆく。
それでもまだ、幾つかの走行する車両がデウスエクスに襲われているのを見て、二人は再び動き出す。
「皆様、気をしっかり!貴方達は必ず助かります!」
「鉄壁の足止めからは、逃れさせねぇし抜けさせもしねぇよ。安心しな!」
果敢にデウスエクスに突撃し、近距離とあらば蹴りを、遠距離の相手にはそこらにあるコンクリートの塊を投げつけるオリヴィアの後ろで、ヌグエンが打ち漏らした敵を殴り倒す連携の前に数を減らしてゆくデウスエクス。
それでもなお、猟兵を無視して車両を追いかけようとする者の頭上に、太陽の光を遮るものがいた。
「おいおい、あまり俺様を舐めるなよ」
影の正体であるヌグエンに付き従う青白い浄化炎を纏う不死鳥が、自身の体から【生命を啜る凍れる炎の大厄災竜の欠片】を周囲にばら撒いて行く。
触れるだけで敵対する者の命を吸い上げる大厄災竜の力の前に、一人、また一人と倒れるデウスエクス。
せめて一矢報いようと言うのであろうか。最後に残ったデウスエクスが大きく息を吸い込みブレスを吐きだそうとするが。
「させません!」
寸前にオリヴィアの膝が顎を蹴り上げ、無理やり口を閉じさせられたデウスエクスの体内で行き場の無くなったブレスが暴発。
その威力に耐えられる破裂したデウスエクスを最後に、戦いは幕を閉じたのであった。
「ふぅ……治療完了です。もう痛みは有りませんね?」
戦いの後、全ての避難民の避難が完了した後。
最後まで残っていたオラトリオの姉妹の傷を完全に癒すべく、猟兵達は治療効果のあるユーベルコードを使用していた。
癒しを司る大天使に祈りを捧げ、治癒の能力を得たオリヴィアが姉妹の片割れを癒し。
「こっちも問題ナシ。でも……無茶し過ぎはダメなんだからねェ?」
もう片方もラビオのメス捌きによって完全に傷は塞がり、彼女達の体には傷跡一つ残っていない。
「こっちも準備完了だぜ?何時でも動くってよ」
「殆ど修理は済んでいましたからね。組み立てと簡単な点検だけで済みました」
その傍らで、ヌグエンと充の二人が姉妹が乗っていた医療用の車両の修理を済ませており、いつでも運転可能だと太鼓判を押す。
それはつまり、少女達と猟兵の別れの時が来たという事だ。
「何から何まで、ありがとうございました」
「この御恩は決して忘れません」
丁寧に頭を下げる二人に、今生の別れでもあるまいし、涙を流すのも違うだろうと、猟兵達は笑って返す。
走り去る車両から手を振る二人を見送り、彼等の任務が完了した所で。
「充……ちょっと肩貸して」
緊張が途切れたラビオが、糸の切れた人形の如く充へと倒れこんだ。
彼の使用するユーベルコードは疲労を伴う。
怪我人や少女達の前では見せなかった疲労は限界に達しており、今まで隠し通していたが最早意識の限界であった。
「お疲れさまでしたラビオくん……大丈夫かい?」
「げんかーい……でも寝ちゃう前に言わせて。充も頑張ってたねェ、えらァい……」
そう言うなり寝息を立てるラビオを、ゆっくりと背中に背負った充。
言葉は聞こえないだろうからと、優しく頭を撫でれば、顔を横に振って肩を枕代わりに埋めてくる姿が、どうにも微笑ましい。
「私も……少し疲れましたね」
オリヴィアのユーベルコードも同様の性質が有るが、使用した回数が少なかったが故に、まだ余裕はある様子。
それでも少し休息が取りたいと大きな瓦礫の上に座り込んだのを見て。
「OK。それじゃあ、元気な俺様が帰りの足を探してくるぜ」
そんな二人を気遣って、何かしらの通信設備で連絡を取るか、残された車両の中に動くものがあるかもしれないとヌグエンが元避難所の跡地へと足を運ぶのであった。
一方その頃。
猟兵達に助けられた姉妹は車両で移動しながら、戦況を報告するラジオを耳にしていた。
勝利、敗北、撤退、後退、交戦、拮抗。
数々の状況がラジオから流れ、その一言一句を少女達は聞き漏らさない。
始めは二人の少女を助けるだけの任務が、気が付けば数々の猟兵が関わり、大勢の避難民を助ける事にまでなっていた。
だが終わってみれば結果は上々といっても過言ではないだろう。
猟兵達の戦いは、一先ず終わった。だが、少女達は少女達の次なる戦場を求めていた。
「皆様から救われた命の恩は、皆様を救う事で返しましょう」
「無茶をするなとは言われましたが……やはり私達を必要としてくれる人々の願いを無碍には出来ません」
この世界から全ての害のある物、毒ある物を絶ち。全ての人々が平和な人生を送るまで。
彼女達の戦いは続き、猟兵達の戦いもまた続くのだろう。
「此方B-1!戦いは激しさを増す一方で負傷者多数!救援を求む!!」
その一報を聞くなり、少女達はハンドルを勢い良く回しアクセルを踏み込んで加速するのであった。
大成功
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