●負けると分かっていても
「バーニアナックル!」
大通りにガギッ! という甲高い音が響き渡る。
分厚い鉄板を殴ったような硬い感触。手ごたえはあった。
しかし拳に走る鈍い痛みが、敵の強靭な肉体に僅かもダメージも与えていないことを物語る。
「そんな、俺の全力のパンチがっ……!?」
言い終える間もなくヴィランに立ち向かう少年ヒーロー、レッドバーニアの体は宙を舞う。
ヴィラン、否オブリビオンの反撃の拳が彼の体を吹き飛ばしたのだ。
「ゲフッ!! ぐ、くそ……俺じゃ勝てないってのかよ。誰か、ヒーロー……」
灼けるような熱さのアスファルトに叩きつけられ吐血するレッドバーニア。
彼は敵から距離を取ろうと這うように腕を伸ばし、しかし直ぐに地に指を食い込ませ立ち上がった。
脳裏によぎった弱気な心を振り切るように頭を振ると、機械の体を持つ猪型怪人達を霞む眼でまっすぐ見据える。
「いや、ヒーローは俺だ! 今、俺が立ち向かわなくてどうする!」
震える膝に鞭を打ち、レッドバーニアは猪怪人達に向けて突撃する。
「俺じゃきっと奴らには勝てない。でも、俺は……ッ!」
そして鈍い衝撃音が炎天下の街に響き渡り……若きヒーローの体が再び宙を舞った。
●イェーガー・アッセンブル!
「諸君、集まってくれてありがとうな。この珈琲は依頼料の前払いってことで遠慮なく飲んでくれ」
丸サングラスを光らせ、枯井戸・マックス(強欲な喫茶店主・f03382)がグリモアベースに集まった猟兵達の前に氷がたっぷり入ったアイスコーヒーを差し出す。
「ヒーローズアースにおいて新米ヒーローがオブリビオンと交戦し、敗北する光景が見えた。諸君らには彼の救援とオブリビオンの撃破を依頼したい」
戦場となっているのはヒーローズアースの市街地、その大通りに位置する交差点だ。
時間帯は昼間で見通しもいいが、至る所に破壊された車両や建物の残骸などの障害物が散乱している。
「今回の救出ターゲットはヒーローネーム・レッドバーニア。新進気鋭のティーンヒーローだ。日頃の熱心な活動のおかげか、市民からの認知度は高いらしいな。まあ、苦戦続きで人気の方はそれなり、といった所みたいだが」
マックスがディスプレイにレッドバーニアの画像を表示する。
赤いプロテクターやエンジンのシンボルが描かれたボディスーツが特徴的だが、バイザー付きヘルメットから覗く素顔はどこにでもいる普通の青年といった顔立ちだ。
「彼の能力は『ターボエンジン』。血液を燃料に体内の原動機を回転させて馬力を高める、典型的な肉体強化型のスーパーヒーローだな」
続いて表示されたのは監視カメラの記録映像であろう彼の過去の戦闘記録。目立った武器などを持たず、その身一つで悪漢達と殴り合っている。
時折、敵からの反撃を受けてよろめく様子なども見受けられるが、一般人以上の戦闘能力は身に着けているようだ。
「だが、気になる点が一つ。こいつの体にはもう一つの荒ぶる力が眠っているらしいんだ」
映像の中で倒れるレッドバーニア。しかし、彼の体がふらりと力なく立ち上がり……そこでカメラが破壊されたのか、画面が砂嵐に変わる。
「この映像の後だが、事件現場は酷い有様だったみたいでな。周囲の建物は軒並みボロボロで、ヴィラン達もレッドバーニア自身も瀕死の状態で倒れていたらしい。なにかと訳ありなヤツってことだな」
まあそれは猟兵諸君も同じような物か、とマックスは周囲の猟兵に胡散臭い笑みを向けた。
「これで説明は以上だ。彼を救い出すまでが依頼だが、如何せん悩み多き若者だ。アフターサービスってことで、一段落ついた後にでも彼の相談に乗ってやってくれよ。その分、報酬も弾むからよ」
そう言うと、マックスは本体である仮面を顔に当てる。眼孔に嵌められた緑の宝玉が輝くと、そこにはヒーローズアースへと繋がるワームホールが口を開けていた。
「そうそう、さっきのアイスコーヒーだが、まだ店に出す前の試作品なんだ。帰ったら感想を聞かせてくれ。だから、無事に戻って来いよ?」
Naranji
ダダッダッシュ! キミと明日へ~青く輝く地球を守りたい~♪
ダダッダッシュ! 若さ全開~♪
ヒーローの中に~君が~い~る~♪
……はい。
こんにちは、日米問わずヒーロー大好きなMSのNaranjiです。
初めましての方は初めまして。
以前も参加して頂いた方は、また覗いていただきありがとうございます。
さっそくの余談ですが、冒頭の替え歌はいつもサビ部分でこじつけるんですが、今回は原曲のAメロ歌詞からレッドバーニア君のキャラに合っていて、どこを抜粋するかを非常に悩みました。
あ、どうでもいいですね。
さて、依頼の流れですが、
集団戦パート→日常パート→本ボスパートという構成になっております。
序盤中盤でいかにレッドバーニア君の心を解きほぐし、または自信をつけさせることが出来るかで本ボスパートでの彼の様子に変化が見られる筈です。
それは何らかの形で戦況にも大きな影響を及ぼす事になりますので、どうか皆さまの御助力をお願いいたします。
逆に、彼が苦悩を強く抱えたまま最終戦に突入するとデメリットが発生することになるので要注意です。
(具体的に言うと、🔴の数が皆様の参加回数よりも多い間は危険ゾーンです)
それでは皆様の格好よく素敵なプレイングをお待ちしております。
第1章 集団戦
『プルトン人』
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POW : フルメタル・スキン
全身を【地球には存在しない未知の金属でできた装甲】で覆い、自身が敵から受けた【攻撃を学習し、味方全体で共有。その蓄積】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。
SPD : ブラックアイド・ヒューマンズ
【眼以外は完璧に地球人に擬態した潜入工作員】を召喚する。それは極めて発見され難く、自身と五感を共有し、指定した対象を追跡する。
WIZ : アンノウン・ウェポン
【未知の科学技術で作られた光線銃やその銃剣】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
イラスト:V-7
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
アレク・アドレーヌ
成程、新人ヒーローね…まぁ見る限り空回りしてるというよりかは何かしら焦りすぎと形容した方がいいだろうな
ま、しばらく様子を見た後ヤバそうなら乱入だな…余程の無茶というか無謀をするようなら即乱入してヒーローとは何たるかを教えるが。基本は教えるよりもまず自分で気づくことが大事だからな
まぁそんな状況でも空気読まないヴィランは多いのでサクッと【早業】【ダッシュ】【先制攻撃】で仕留めておくことにする。
「ぐあああっ!」
二度目の突撃も敵に届くことは無く、レッドバーニアは再び吹き飛ばされ、宙を舞う。
恐怖心と焦りを紛らわすための破れかぶれの攻撃では、オブリビオンの格好の的であった。レッドバーニアはなんとか空中で体勢を立て直すも、ダメージが蓄積した体では華麗に着地することも儘なら無い。
「くっ、俺一人の力でヴィランに勝たないといけないのに。強くならないと、いけないのに……」
地面に拳を叩きつける間にも猪型怪人『プルトン人』達は一歩、また一歩と確実に彼に向けて歩を進めている。
そんな一方的な戦いが繰り広げられている大通りを見下ろす緑色の影が一つ。
通りに面するマンションの屋上に、その姿はあった。
「成程、新人ヒーローね……」
彼の名はアレク・アドレーヌ(出来損ない・f17347)。
緑色の生体鎧で全身を包み、赤いマフラーを靡かせる。正にヒーロー然とした堂々たる立ち姿で、彼は階下の戦いを見守っていた。
顔を覆うのっぺらぼうな白い仮面から感情を読み取ることは出来ないが、アレクが直ぐに参戦しなかったのは、バーニアに戦いを全うさせてやりたいという思惑があっての行動だ。
「ヒーローとしての生き方に悩むことは誰にだってあるが、基本は教わるよりもまず自分で気づくことが大事だからな。でも、そろそろ潮時かね」
新人ヒーローの成長を願い、見守ることもまたヒーローの務め。
しかし、既に決着は見えていた。
「ブルルゥ……オバエノ中身、貴重ナ、サンブル。我ラノ神ニ捧ゲル、相応シイ」
プルトン人達の先頭を歩く個体が呟きながら、その手に握る刃を高々と振り上げ、投擲の構えを見せる。
「ダガ、オバエノ外側、イラナイ。オバエハ、死ネ!」
無慈悲な宣告と共に刃が解き放たれ、片膝をつくレッドバーニアの頭部に向けて真っすぐに飛んでいく。
最早これまで、とレッドバーニアは目をつぶるが、しかし斬撃が彼を襲う事は無かった。
「焦っているみたいだな、レッドバーニア。でも、時には助けを呼ぶことも恥ではない」
バーニアが目を開くと、そこにあったのは指先で刃をつまむようにして受け止めるアレクの姿。
「あ、あなたは?」
「自己紹介は後。お話しは奴らを倒してからだ」
アレクは刃を投げ捨てると、目の前に迫るプルトン人に向けて駆けだした。
「1、2……6体。大した数ではないけど、さっさと終わらせるとするか」
バーニアに接近していた敵を数えあげると、アレクは足に纏う外骨格に指令を飛ばす。求めるのは何者にも追いつかれることのない速さ。
指令を受けた外骨格はその形を飛蝗の後ろ脚のような逆関節型に変化させ、彼に驚異的なスピードをもたらした。
「ブヌゥ、新手ノヒーローカ。邪魔ヲ……ッ!?」
脚部装甲の大地を穿つ一蹴りはアスファルトを弾けさせ、爆発的な推進力を得たアレクの体は一瞬でプルトン人たちの背後に回る。
「ブヌ、ヌ、何ヲ……?」
「俺は何もしていない。ただ、すれ違っただけさ」
ガクガクとぎこちない動きで背後を振り向くプルトン人。しかし奴がアレクの姿を目にする事は無かった。
背後を振り向こうとする僅かな振動で、装甲ごとバラバラに切り裂かれていた機械の体が地面に崩れ落ちたのだ。
「俺の高速の動きで生じた真空の刃がお前を切り裂いたのさ、ってもう聞こえてないか」
足元に散らばった残骸を蹴り飛ばすと、アレクは自身を取り囲むように集まって来たプルトン人たちを一瞥し、跳躍の構えをとる。
「さて、先輩らしい姿を見せてやるとするか」
成功
🔵🔵🔴
アーク・ハインド
「海賊参上、今日略奪するのは若きヒーローの脅威っす。」と言いながらユーベルコードを発動、船員達を前衛に、自身は中~後衛からすくラッパーカノン、またはターン・オフ・ピストルで海賊団を抜けてきたプルトン人を相手に戦います。
ただしレッドバーニアが前線へ行くというのならば自分も続き傍で戦いを見つつ自分も戦います。
技能:見切り、盗み、盗み攻撃でレッドバーニアへと届く脅威を略奪しつつ
技能:かばうで略奪しきれなかった攻撃を受けます。
何か言われたら「あんたあ攻めるのが得意、自分は守るのが得意、適材適所っす」と言って攻撃に集中させます
技能:属性攻撃で様々な属性を降り混ぜた攻撃を海賊団と共に行い学習に対抗します。
プルトン人達に対し八面六臂の活躍を見せるアレクの戦いに、レッドバーニアは呆然とする。
自分が如何に弱かったのか。本当に自分一人では何もできないのか。そんなネガティブな感情が彼の中を飛び交っていたのだ。
「頭にくるよ、こんなところで這いつくばって見てるだけの、情けない自分自身に」
怒りに呼応して体内の原動機が回転し、体が熱くなっていく。
しかし目の前の戦いと自身の感情に目と心を捕われていたレッドバーニアは、路地裏から現れた新たなプルトン人が迫っている事に気付くことが出来なかった。
「ブモオオアアア!!」
手斧を振り回して殺到するプルトン人達。そんな敵勢を前にレッドバーニアは素早く体勢を立て直すも、間に合わない。
彼の体が切り裂かれようとした、その瞬間、
「かつて海に散った亡霊の海賊共! 略奪の時間っす!」
どこからともなく現れた船員服の男が迫る斧をサーベルで打ち払った。
「武器を持て! 勝鬨の声を上げろ! 今、再び、略奪を開始するぞ!! 」
号令の声が上がる度に日焼けした男達が現れてはプルトン人達と切り結び、大通りは一瞬にして大乱闘となった。
そして、その号令を下していた海賊船長ルックの少女―アーク・ハインド(沈没船・f03433)がレッドバーニアの元に駆け寄ってくる。
「海賊参上、今日略奪するのは若きヒーローの脅威っす! 自分達が来たからには、もう心配ないっすよ!」
赤いキャプテンハットをくいっと押し上げて不敵に笑うアークの姿に、バーニアは目を点にする。
「君も、ヒーローなのか?」
「まずは助けてくれてありがとうじゃないっすか? っと危ない!」
アークはクルーたちを掻い潜ってきたプルトン人を見るや否や、懐から取り出したピストルで迎撃する。
金属の鎧に対し鉛玉は有効打にならなかったようだが、足止めとしては十分だったようだ。銃撃に耐えるプルトン人に船員たちが組み付いて、再び戦線へと引き戻していく。
「一人で出来る事なんて限界があるっすよ。自分みたいに仲間の力を借りて戦うことだって立派な戦術っす」
頼りになるでしょ、と笑うアークをバーニアは直視することが出来なかった。
それは輝く太陽の眩しさに目をそむける素振りにも似ていて。
「出来る事ならそうしたいさ。でも、俺は……」
「煮え切らないっすねー。そんなんじゃ海で生き残れないっすよ!」
彼の肩をバンっと叩くと、アークは戦況を眺める。
クルー達もサーベルや鍵爪ロープなど多彩な攻撃で善戦しているが、如何せん金属の装甲を持つ敵に対し幽体の彼らでは決定打を与えることが出来ないようだ。
「このままじゃジリ貧っすね」
敵の反撃を受けて掻き消される仲間を目にし、アークは歯噛みをする。
そんな彼女を押しのけるようにして、バーニアは再び身構えた。
「俺が行くよ。いつまでも任せっぱなしじゃ、格好がつかないからさ」
「……やるって言うのなら止めないっす。でもそれなら自分も付いていくっすよ」
拳を突き合わせて力を高めるレッドバーニアに、アークがピストルをくるくると回しながら並ぶ。
「敵の攻撃は自分が盗んでやるっすから、君は攻撃に集中を。あんたは攻めるのが得意、自分は守るのが得意、適材適所っす」
「……ごめん」
短くアイコンタクトを交わし、レッドバーニアは体勢を低くして走りだした。
プルトン人が猛スピードで接近する赤い影に向けて拳を叩き込もうとするも、その顔面に鉛玉をうけて微かによろめく。
「お前の脅威は我らアーク・ハインド海賊団が略奪する!」
よろめいている内にプルトン人の懐まで潜り込んだレッドバーニアは、体内のエンジンをフル回転させた。
「血よ燃えろ! 回れよムーバー! バーニア……ラアアアッシュ!!」
突進の推進力を乗せて前傾姿勢のまま打ち出す両拳が少しずつではあるがプルトン人の体を後ろに押し進めていく。
打ち込む程に速さと重さ、そして熱量をましていく拳は遂に敵の胸部を貫通した。
赤熱した拳を背中から生やしたプルトン人は、そのまま力なく倒れ込んだ。
「はあっ、はあっ……俺自身が強くならないと、意味が無いんだ。……またアイツが出てくる前に、ヴィランを倒せるように」
体内から湧き上がる身を焼くほどの熱量に苦しみながらも、レッドバーニアは立ち続けていた。
しかし、まだ倒したのは一体のみ。船員たちが押し留めてくれているとはいえ、油断は禁物だ。
「良い顔になってきたっすね。さあ野郎共、自分達も負けてられない。気合入れていくぞ!」
こうして海賊団とヒーローの共同戦線は続く。
たとえ反撃を受けて押されようとも決して引かず、支え合いながら進むアークの戦い方は、レッドバーニアの目に新たな炎を灯したのであった。
苦戦
🔵🔴🔴
支倉・新兵
アフターケア、か
ヒーロー…ベテランも新人も色々抱え込む稼業なのかなぁ…
敵の方は…いつもと違って索敵があるのは狙撃主には厄介か
指定されるまで追跡しては来ないようだし、位置を特定され辛い跳弾で行こう
高所の物陰に陣取り、迷彩も起動させ狙撃体勢…予めドローンを放ち索敵・弾道計算しつつ跳弾狙撃
レッドバーニアは…一人で背負い過ぎて無茶してる感じ、か?
背負込んで、逆にそれで心も…文字通りエンジンも空回りして暴走…そんな感じに見えるけど…推測で結論を出すのは危険だな、うん
先ずは言葉より彼とは共闘が先…どうせ俺自身口が巧い方じゃない
彼をアシストする射撃で負担を減らすよう立回りつつ、下手に接触せず様子見と行こうか
アークとレッドバーニアが奮戦する間にも戦いは加速していく。
戦場となった十字路に次々とワームホールが開き、レッドバーニアを救う為に様々な世界から猟兵達が駆けつけ、プルトン人に戦いを挑み始めたのだ。
これにはプルトン人の一派にも動揺が走る。一人一人の戦力が拮抗、ともすれば凌駕されてしまう猟兵達に数の差すらも覆されてしまえば、自分達の敗北は必至だ。
そう考えたプルトン人の首魁たる一体は、まずは敵勢の位置と戦力を割り出すことを目的に動き始めた。
「出デヨ、ブラックアイド・ヒューマンズ」
手に持った光線銃から地面に向けて光の帯を打ち出すと、そこからホログラムが沸き上がる。そして次の瞬間には、総勢10人以上のサラリーマン風の男達が首魁の前には整列していた。
「猟兵共ヲ攪乱シ、奴ラノ情報ヲ集メルノダ……行ケィ!」
眼球の全てが漆黒に覆われていること以外は人間と見分けがつかないその男達は、首魁の指令を受け、音もなく散開する。
彼らは時に陰に潜んで猟兵達の戦術を探り、またある時は逃げ遅れた一般人に扮して猟兵達の戦いを妨害するのであった。
「な、なんだ、まだ人がこんなに……。皆、ヴィランは俺が食い止める! その間に速く逃げて!」
そしてレッドバーニアもそんな敵の術中に嵌った1人であった。
彼はスーツ姿の男達を逃がそうと、プルトン人の気を引くよう、それまで以上に大ぶりの攻撃を繰り出す。
元より彼は戦闘特化の短期決着型のヒーロー。更に彼のヒーローとしての経験の乏しさも相まって、こういった不測の事態に対応することが出来なかったのだ。
そしてレッドバーニアが懸命に庇う男達は当然、彼の消耗を狙ってその場から離れようとはしない。
「なにか妙だな……」
しかし混乱の輪が徐々に広がりつつある戦場において、違和感に気付いた猟兵が1人。
大通り沿いに立ち並ぶビル、その地上約20mの高さにある窓から狙撃用ライフルの銃口を覗かせていた支倉・新兵(狙撃猟兵・f14461)は、逃げ惑う男達の挙動を注視する。
同様に索敵用にと予め飛ばしておいたドローンにも彼らの様子を観察させれば、感じた違和感は確かなものとなった。
「やっぱり、さっきからあの人たちは逃げるふりをしながら皆の戦いを観察してる。ってことは、あれはオブリビオンの諜報部隊か」
新兵の背を悪寒が駆け抜ける。狙撃手たるもの、敵に自分の位置がばれてしまうのは最も避けるべき事態なのだ。
彼の中で、最優先に倒すべき相手が決定した瞬間であった。
「狙撃位置を特定されないように跳弾射撃で仕留める。狙いは……」
スコープ越しに新兵の瞳が戦場を駆け巡り、自然とサラリーマン風の男を守るようにして戦うレッドバーニアに目が行く。
「ヒーロー……ベテランも新人も色々抱え込む稼業なのかなぁ」
且つて出会ったヒーローも、最初の内は猟兵との共闘に渋い顔を浮かべていたことを思い出し、新兵は少しだけ頬を緩ませた。
「レッドバーニアは……あの人とは違って一人で背負い過ぎて無茶してる感じかな。背負込んで、逆にそれで心も、文字通りエンジンも空回りして暴走。そんな感じに見えるけど……推測で結論を出すのは危険だな、うん」
元より口下手な新兵はレッドバーニアに対し語り掛けるべき上手い言葉が見つけられない。それに、そんなことに頭を使うくらいなら、戦果でもって彼をサポートするべきだ。
そう判断した新兵は、手始めに彼の周りを飛び回る邪魔者を排除することに決めた。
「なにより俺も、自分のことで手一杯だから……ねっ!」
シュコンッという小気味いい音と共にライフル弾が階下に向けて撃ち出される。
弾道は狙い逸らさずアスファルトに跳ね返って上昇すると、更に転がった車の残骸に当たって僅かに軌道を逸らし、サラリーマン風の男の心臓を無慈悲に貫いた。
「……っ!? そんなっ!!」
守るべき市民が凶弾に倒れた。
そんな光景を目の当たりにして絶句するレッドバーニアであったが、しかし目の前で男の体がノイズ交じりのホログラムのように霞み消えていく様を目にして、更に目を見開く。
「これは……まさか俺が今まで守っていたのは全部ヴィランが見せていた幻……?」
「そういうこと。真面目過ぎたら長生き出来ないってのは傭兵もヒーローも同じだね」
届くことのない助言を口にして、新兵は次なるターゲットを捉えトリガーを引く。
幾度かの跳弾の後、地面に倒れ伏した男がホログラムの屑となって空気に溶けていった。
「うん、いい調子。本当の一般人が混ざってないか冷や冷やもんだけど、この分なら大丈夫そうだね。さて、俺は俺の仕事をさせてもらうから、彼のことは任せたよ、皆」
こうして、姿見せぬ猟兵の活躍により、プルトン人の諜報作戦は失敗に終わったのであった。
大成功
🔵🔵🔵
サンディ・ノックス
ヒーローは我が強そうと苦手意識を持っていてこの世界に近付いたこともなかった
いけないね、目標にひたむきな性質と種族や立場は関係ないのに
訳ありの内容を聞いて
このヒトは俺と同じ間違いをするかもしれないと思ったら放置できなくなった
救出するとき一番気を付けるのは
彼が俺より年上で、持つ力の差に複雑な感情を抱く可能性
苦戦続きの苦悩とか眠っている力のことは助けたあとじっくり話そう
解放・夜陰で敵の目を狙う
呼びだす存在(同族?)が擬態できない場所だから重要な部位かなと予想
攻撃はフェイントを織り交ぜながら躱す
躱しきれないものは他の敵を盾にもする
救出後はあなたが先に戦っていたから俺たちが間に合ったのだと健闘を称えるよ
セツナ・アネモネ
【SPD】
心に体がついてこない、ね……気持ちはわからなくもない。
でも、立派じゃない……助けを求めるよりも自分で立ち向かう。アタシは好きだよ、そういうの。
……ま、それで死んじゃ元も子もない。
とりあえず、ここはアタシに任せて。
数を相手にするのは……前よりもっと得意になった。
まずは挨拶代わりにBB71……グレネードで【範囲攻撃】。
空いた穴に飛び込んでS&Dで【なぎ払い】、デーモンバイルで【敵を盾にする】。
UCもたまには使おうか……さぁ、「アンタは人間か?」……まぁ、答えがどっちだろうが関係ない、吹き飛びな。
レッドバーニアを救う為に駆けつけた猟兵の1人、サンディ・ノックス(闇剣のサフィルス・f03274)は、乱戦を掻い潜りながら少年ヒーローの姿を探していた。
彼が過去に犯したという過ちをレッドバーニアに経験してほしくない、その一心でサンディは戦場を駆ける。
時には迫り来るプルトン人の懐に敢えて飛び込み、また時には機敏なステップで銃剣を紙一重で躱し、敵の猛攻を振り切る。そして幾体目かを捌き切った所で、サンディはようやくレッドバーニアを発見した。
プルトン人の放つ光線に貫かれ、地面に崩れ落ちる瞬間のレッドバーニアの姿を。
「なっ、間に合わなかった……」
後悔は一瞬。サンディは素早く思考を戦闘に切り替えると、フィンガースナップを打ち鳴らす。
すると、どこからともなく現れた漆黒の水晶弾がレッドバーニアを襲ったプルトン人に殺到し、その身体を啄むようにして削り、喰らい、消滅させていった。
脅威を滅したことを確認したサンディは次いで急ぎレッドバーニアの元に駆け寄る。
しかし、見ると光線で貫かれたはずの傷跡は彼の体のどこにも無く、地面に残る赤々とした血だまりだけが先ほどの惨状が夢ではなかったことを証明していた。
「これは……? でもよかった、まだ息はあるみたいだね。大丈夫?」
苦し気な表情で目を瞑っていたレッドバーニアは、サンディに声をかけらたことで僅かに目を見開き、急ぎ起き上がる。
「て、敵は?」
「大丈夫、俺が倒したよ。随分と血を流したみたいだね。急に動かない方がいい。あなたは少し休んでいてよ」
人当たりのいい笑みを浮かべて語り掛けるサンディ。
しかし、レッドバーニアは制止を聞かず無言で立ち上がり、次なる敵を求めて戦場を見回し始めたではないか。
「人の忠告は聞いてほしいなあ」
(……ヒーローは我が強そうだとは思っていたけど、どうやら予想は当たっていたみたいだね)
最後の一言は誰にも聞こえないよう心の中だけに留め、サンディはやれやれといった様子でレッドバーニアに並ぶ。
しかし周囲に視線を走らせる彼の眼は必死そのもので、サンディは直ぐにその考えを改めた。
(いや、いけないね。目標にひたむきな性質と、種族や立場は関係ないのに。きっと彼にも出会ったばかりの人には言えないような事情があるんだろうし)
「まあ、話はこの戦いが終わってからにしようか。戦えそう?」
「はぁ、はぁ……確かに血を流しすぎたかも、しれないな。俺から離れた方がいいよ。もしかしたら、巻き込むかもしれない」
この状況での助っ人の心配をするとはどういうことだろうか。
不審に思ったサンディがもう一度レッドバーニアの顔を覗くと、彼の据わった目は真っ赤に充血しており、瞳孔は忙しなく拡大縮小を繰り返していた。思えば全身の筋肉も一回り膨れ上がっているような気さえして……。
「あなた、もしかして……」
「ブモオオアアア!!」
「グルゥゥアアアアア!!」
しかし、サンディが声をかける間もなく、2人の元に新たなプルトン人の一派が吶喊してくる。
このままでは白兵戦は避けられない。そんな距離にまで接近を許してしまっていた事に歯噛みをしつつサンディは再び夜陰の弾丸を放とうと指を向け、
「ここはアタシに任せて」
唐突に背後から駆け抜けた黒と赤を棚引かせる人影が、手に持った短機関銃を横薙ぎに掃射しプルトン人達を吹き飛ばした。
「余計だったかな?」
「いや、助かったよ。貴女はグリモアベースにいた……」
「セツナ。アンタはサンディだっけ? そしてそっちの君がレッドバーニアね」
黒衣赤髪のダンピール―セツナ・アネモネ(記憶の果て・f04236)が、今しがたすれ違ったばかりのレッドバーニアに一瞬だけ視線を向けた。
「アタシ達、実はここに来る前にアンタの事を少しだけ聞かされてきたんだ。その上でちょっとだけ激励と説教」
未だ周囲を取り囲むように迫り来る敵勢に警戒を飛ばしながら、セツナは背中越しにレッドバーニアに言葉を送る。
「アンタの気持ちはわからなくもないよ。でも、立派じゃない?……助けを求めるよりも自分で立ち向かう。アタシは好きだよ、そういうの」
「ありがとう。……でも、あなたもはやく、逃げて」
セツナのぶっきらぼうながらも温かい言葉を聞き、レッドバーニアは静かに全身を震わせる。最早、立っているのもやっとという様相だ。
瀕死の重傷を持ち前の回復力と気力でなんとか繋ぎ止めていたが、次々の救援の登場で緊張の糸が切れかけているのだろう。
セツナとサンディは彼の様子をそう判断した。
「ま、それで死んじゃ元も子もない。とりあえず、今はアタシに任せて。数を相手にするのは……前よりもっと得意になった。」
セツナは言うや否や、短機関銃を握る手とは逆の手に持つグレネードピストル『BB71』をプルトン人達が最も密集している地点に向けて発射する。
そして巻き起こる爆炎に飛び込めば、かなりの重量があるはずの短機関銃を軽々とそれも恐ろしいスピードで振り回し、常識はずれの銃による接近戦を繰り広げ始めた。
「彼女も張り切るね。でも、それも一人で果敢に戦っていたあなたを助けたいからこそなんだよ。そしてそれは俺も同じ」
サンディの口から紡がれる柔らかい言葉。しかしそれとは裏腹に、サンディの周囲に現れた夜陰の結晶からは、敵を貪り食わんとする暴食の悪意が滲んでいた。
「だから、今だけは俺達にあなたを守らせてよ」
そして、再び打ち鳴らされたフィンガースナップ。
解き放たれた結晶弾幕は、獲物に群がる魚群の如き動きでプルトン人達に飛び掛かっていく。その狙いは黒々と光る眼球だ。
サンディの読み通り、ホログラム兵にも共通して存在したこの黒い瞳は、仲間や使役する召喚兵との間で情報を共有する為のアンテナとして機能していたのだ。
そのアンテナが潰された事により、直に攻撃を受けた者のみならず、多くのプルトン人が脳髄を引き裂くような五感のノイズに襲われ藻掻き苦しむこととなった。
「さぁ、洗いざらい吐いて貰おうか。『アンタは人間か?』……正直に言わないと痛い目を見るよ」
一方のセツナは、機関銃の弾丸を鎧にめり込ませたプルトン人達に向けて、『問いかけ』を飛ばす。
無論、セツナの言葉が届くような状況になかったプルトン人にその返答が出来よう筈もなく、
「グモ? ……ギ、ギグゥゥオオオオ!!」
「ギィイイオオオオオオ!!」
弾丸に仕込まれていた特殊な薬品が弾の破裂と共に体内に浸透し、返答に失敗した者達に致命の苦痛をもたらした。
しかしセツナのその問いかけは、意図せずして、弾丸を受けていない筈の者の心も深く抉っていた。
●
「人……間……」
全身を痙攣させながらゆっくりとセツナ達の元に歩みよるレッドバーニア。
その様子は見るからに尋常ではない。
「お、おい。アンタ、大丈夫か?」
「人間だ。ニンゲン……?」
レッドバーニアの体内から聞こえてくるのは今にも爆発しそうな程に叫びを上げるエンジンの駆動音。
体からは湯気が吹き上がり、離れていても激しい熱気を感じるほどだ。
見ればは全身の筋肉は先程よりも更に膨張し、天井知らずに上がっていく体温のせいで真っ赤に変色している。
「違う、違ウ、チガウ! 俺ハアァァ……!!」
次の瞬間、レッドバーニアの姿が消えた。
否、信じられない力で大地を蹴り上げ跳躍したのだ。
「あれが……レッドバーニアに眠るもう一つの荒ぶる力、なんだね」
グリモア猟兵が言っていた話を思い出し、サンディは胸中の驚愕を誰に言うでもなく吐露する。
あの姿、あのプレッシャーはまるでオブリビオンのようではないか、と。
そして、落ちてくるのは赤熱する原動機(プライムムーバー)の化身。
滾る怒りは自分を今まで散々に痛めつけた猪たちに向けて。
「俺ハアアア!! トォォルクゥゥ・オォォーバァアアアー!!」
身に纏ったプロテクターが弾け飛ぶ程に膨張した筋肉。
そこ繰り出された拳が、並み居るプルトン人達を一撃でスクラップへと変えていった。
そして更なる暴力を振りまかんと、レッドバーニアは進撃を開始する。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
東山・歩
ヒーローかー、弟がいたからよく見てたなぁ。
おっと、いけないいけない。これはテレビの番組じゃなくて現実!頑張れ歩、初仕事だぞー!
とりあえず……やっちゃえ、ハムさん!
敵はハムさんに任せてっと。
やぁやぁレッドバーニアくん、大丈夫?
私は……うーん、なんて言うかな……普通の女子高生、東山さん!
強くなるのも良いけど、もっと仲良しさんを増やすのも良いんじゃないかな。
ほら、なんとか戦隊とか……そういう感じ?バーニアくんが得意じゃないことを補ってくれるパートナーが必要だと東山さんは睨んだのだ!
……どうかな?
レッドバーニアがトルクオーバーの姿を解放し戦い始めてから暫しの時が流れ、戦場に新たな猟兵が足を踏み入れた。
「わあ、世界移動ってこんな感じなんだ」
初めての転移に目を白黒させる一人の少女。
彼女―東山・歩(普通of普通・f21515)は普通の女子高生である。
いや『であった』と言った方が正しいか。
UDCアースで普通の生活を送っていた彼女が偶然巻き込まれた戦いを切っ掛けに猟兵として覚醒し、新たな人生を歩み始めたのはつい最近のお話しだ。
つまり歩もレッドバーニアと同じくルーキーなのである。そんな彼女だからこそ、同じルーキーのレッドバーニアには何か思う所があるのかもしれない。
「ヒーローかー、弟がよく見てたなぁ……。おっと、いけないいけない。これはテレビの番組じゃなくて現実! 頑張れ歩、初仕事だぞー!」
ないのかもしれない。
そんな初めての連続に胸を弾ませながらヒーローズアースに降り立った歩であったが、直ぐに違和感に気付いた。戦いの音が聞こえないのだ。
「あれ、もう終わっちゃってた?」
もしかして遅刻してしまったのだろうか、と違う意味で頬を引きつらせながら歩は辺りを見回す。
と、その瞬間、目の前に鉄屑が降ってきた。
「うわわわぁ!!」
突然の事に尻餅をつきそうになりながらも、間一髪でそれを堪える歩。
よく見ると、降ってきたその鉄屑からはひしゃげた手足が伸びており、ボロボロの牙も覗いている。
「これって、もしかして話しに聞いてたプルトン人?」
説明を受けていたオブリビオンの特徴と一致するその姿を目にし、歩は素早く後退する。しかし、いつまで経ってもそれが動き出す気配はない。
「ほっ、他の誰かがやっつけた後かぁ。あーびっくりし……」
「……ブッ、ブモアアアアア!!」
「きゃああ! 生きてるぅっ!」
突如として復活を果たしたプルトン人に、今度こそ尻餅をついてしまう歩。
しかし、彼女も新人とは言え猟兵。ここには戦う覚悟を持って来たのだ。
ビーストマスターたる歩は咄嗟に手をかざし、つい最近出合ったばかりの仲間を呼び出す。
そして現れたのは体長3mを優に超える巨体。黒く円らな瞳。まん丸い大福のようなその姿は、
「むっきゅううう!!」
どこからどう見てもバカでかいハムスターであった。
「敵は弱ってるよ! チャンスだハムさん!」
召喚した巨大ハムスターのハムさんを鼓舞すれば、ハムさんは鋭利な前歯を光らせて突撃。
プルトン人もこれにはたまらず吹き飛ばされ、大通りの真ん中でガジガジと噛み削られることとなった。
「その調子! がんばれハムさーん!……ん?」
とその時、彼女は背後に巨大な気配を感じた。後ろを振り向けば、そこにあったのは赤い山。
いや、全身から蒸気を昇らせるその赤い大男こそ、まさしくレッドバーニア、否トルクオーバーであった。
歩がそのことに気付けたのは、グリモアベースで見たレッドバーニアのコスチュームとそっくりのボロキレをこの大男が纏っていたからだ。
「や、やあやあ。あなたがレッドバーニアくん? なんか雰囲気違うね、成長期?」
「ウ゛ウ゛ウゥ……誰ダ?」
何事もまずは第一印象が大事。UDCアースで培った常識的なコミュニケーションだ。
歩は笑顔を絶やさないように気を付けながらトルクオーバーに話しかける。
「私は……うーん、なんて言うかな……普通の女子高生、東山さん! はじめまして。ここには君を助けに来たんだよ」
邂逅当初は興奮しており、歩に敵意を向けていたトルクオーバーであったが、以外にも会話は通じる様子。
どうやら歩の朗らかな態度に毒気を抜かれ、幾分か落ち着きを取り戻しつつあるようだ。
「タスケ? ……イラナイ! トルク、ツヨイッ!」
だが助けに来たという言葉は癪に障ったようで、彼は牙を剥きその怪腕を見せつける。
「わっ! で、でもさ、強くなるのも良いけど、もっと仲良しさんを増やすのも良いんじゃないかな。ほら、なんとか戦隊とか……そういう感じ? バーニアくんが得意じゃないことを補ってくれるパートナーが必要だと東山さんは睨んだのだ!」
しかし、歩も引き下がらない。
負けじと身を乗り出して早口にまくしたてれば、今度はトルクオーバーが一歩退いた。
「私はハムさん、あそこで戦ってるハムスターが仲間。まだ私は猟兵になったばっかりで戦いは慣れてないんだけど、それを補ってくれる強い相棒なの。それに先輩の猟兵もたくさんいるし、私はそんな皆の力になれるようにこれからもっと強くなっていくつもり。バーニア君にもきっと助け合える仲間は必要だよ!」
頑なな彼の心を解きほぐすように、歩はトルクオーバーから目を逸らさずに語りかける。
そして一息に喋りすぎて乱れた呼吸を整えて、もう一度上目遣いでその赤い瞳を見つめると。
「……どう、かな?」
「ウ……アァ、ぁぁぁ……」
完全に戦意を削がれたトルクオーバーは殊更激しく体から蒸気を吹き出しながら、その身を萎ませていく。
後に残ったのは、ボロキレを纏い意識を失ったレッドバーニア少年だ。
「きゃ、きゃあ! 大丈夫? 皆―! レッドバーニアくんが大変なの!」
助けを呼ぼうと辺りを見回せば、どうやらハムさんが交戦するプルトン人が最後の一体だったようで、各々戦いを終わらせた猟兵達が彼女らの元に走り寄ってくるのが見える。
当のハムさんも、最後のプルトン人にトドメの前歯を突き立てて、勝利の余韻に浸っていた。
「はあ……なんとかなった、のかな? バーニアくん、大丈夫だと良いけど」
こうして、ヒーローズアースでの最初の戦いが幕を閉じた。
そう、『最初の』戦いである。
彼らの前に次なる脅威が立ちふさがった時、果たしてレッドバーニアはどんな選択をし、どんな道を歩むことになるのだろうか。
それは、まだ誰にも分からない。
成功
🔵🔵🔴
第2章 日常
『悩めるヒーロー』
|
POW : 体を動かし悩みを散らす為、特訓に付き合う
SPD : 何が足りないのか、アドバイスをする
WIZ : 聞き役に徹し、カウンセリングをする
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
〇とある資料より抜粋
被検体No:0040
本名:源藤・エンジ(男性・15歳) (孤児養護施設※※※※より提供)
能力:ターボエンジン
体内に流れてる可燃性の高い血液。そして原動機のような機構を備えた心臓。
この2つを掛け合わせることにより、身体能力を飛躍的に向上させることが可能。
しかし力の行使に伴い体温は急激に上昇し、また血液も多分に消費するため、長期戦闘には難有り。
能力使用後は解熱剤と造血剤の処方を徹底されたし。
能力:トルクオーバー
源藤・エンジが体力の限界を迎えた状態で意識を失った際に現れるもう一つの人格。
源藤・エンジが、その身体に不釣り合いな程に強い能力を抱えているのは、本来ターボエンジンはトルクオーバーの為に開発された能力だからである。
トルクオーバーならターボエンジンの能力を正しく行使し、身体の更なる強化をも可能にするだろう。
しかし、トルクオーバーは好戦的すぎる。
奴は敵と判別した者をあらゆる手段で完膚なきまで破壊する。
それしか考えることが出来ない。故に、それしか出来ない。
以上のことから我々は源藤・エンジ、並びにトルクオーバーを失敗作と断定し廃棄処分とする。
――――――――――――――――
2年前に壊滅した研究施設のデータベースよりサルベージ。
この研究施設はヴィランとの関りも示唆されており…………
――――――――――――――――
※仮に猟兵に当てはめた際のステータス
源藤・エンジ(レッドバーニア)
バイオモンスターの二重人格者×スーパーヒーロー
※上記の情報は後からグリモア猟兵が情報筋から入手し伝達したという事で、猟兵全員が知っていても構いません。また、この事はレッドバーニア自身も断片的ながら把握しています。
〇
レッドバーニア―源藤・エンジは今日もトレーニングジムに足を運んでいた。
病院のベッドの上で目を覚ました時には既に全身に負った傷は回復している。
そして自らの無力を嘆き、再び『あいつ』を解放してしまった事を更に嘆き、そんな悲壮から目を背けるように過酷なトレーニングで体に鞭を打つ。
それがエンジの日常であった。
「あ、レッドバーニア! この前は惜しかったな」
「でもまた他のヒーローが助けに来てくれたんでしょ? 無事でよかったじゃない」
「ねえねえ、バーニアさん! この次は、頑張ってね!」
ジムで向けられるのは、すれ違う馴染みの面々からの笑顔。
彼らの殆どは、レッドバーニアが暴走して破壊の権化と化す事を知らない。
曰く、レッドバーニアが危機から生還できるのは、名も知らぬ、凶暴だが強力なヒーローが助けてくれているから。
曰く、レッドバーニアはまだ若く非力だが、幸運の女神に愛されている。
彼はこのような形で街のゴシップに受け入れられていた。
だが、源藤・エンジと触れ合ったことがある者は皆、エンジが誰よりもひた向きにヒーローとして頑張っていることを知っている。
力不足で負けることはあっても、これから成長していけばきっと素敵なヒーローになる。
そんな期待の目で彼を見つめているのであった。
「いっそのこと、怖がってくれたらいいのに」
100回目のベンチプレスを済ませてバーベルを降ろしたエンジは、重く溜息をつく。
しかし期待を寄せてくれている皆が恐怖の目で己を見つめる様を想像し、彼の心を冷たいものが走った。
自嘲の余りあんな言葉が口をついたが、全てを失って放浪していた自分を受け入れてくれたこの街を、人々を、手放すことなど自分にはきっと出来ない。
「分かってる、俺は強くなるしかないんだ。あいつが出てこられなくなるくらい、俺一人でも絶対誰にも負けないくらい強くならなきゃいけないって、分かってるんだ。なのに……っ!」
エンジは悔しさを滲ませ、再びバーベルを握り締める。
彼はこの日も一人、一心不乱にトレーニングに打ち込み続けていた。
東山・歩
あ、いたいたバーニアくん……エンジくんの方がいいかな!
すごいねぇ、まっちょめんだ!
……ね、ちょっと私と運動しようよ、運動!
こう見えても体力には結構自信あるんだー。
あっ、トレーニングじゃなくて運動ね!散歩とか、ランニングとか!
エンジくんの生い立ちとか戦う理由とか、いろいろ聞きたいな。
ほら、私ふつーに生きてきたからさ、そういうの聞いてみたいかなって。
悩み事は誰かに話すのが一番!私達もう友達だもんね!……ね!
アスカ・ユークレース
なんだか焦ってるみたいね…
気持ちは分かるけど、このままじゃ彼、いつか潰れるわ
タイミングを見計らって止めに入る
頑張ってますねお兄さん?
でも、休むのもトレーニングのうち
それ以上やったら体壊しますよ?
雑談がてら強さを求める理由や、なぜ一人でも強くないといけないのか、を聞き出してアドバイス
場合によっては厳しい事も言うかも
それから、なんでも一人でやる必要はないと思いますよ
一人でも誰にも負けないくらい強くなるなんて、猟兵でも無理
例えば私は近接が苦手なので得意な人に任せています
私一人よりもずっと強くなれるんです
人を頼れる強さというのもあるのです
手始めに、街の人や他のヒーローともっと交流してみたら?
アドリブ可
先の戦いから一夜明け、レッドバーニア―源藤・エンジが早々に退院しトレーニングジムに赴いたと聞いた東山・歩は、彼を探してジムに訪れていた。
そして歩は探し始めて程なく、フリーウェイトエリアの最重量級ウェイト器具の元に彼を見つける。
「あ、いたいたバーニアくん……エンジくんの方がいいかな!」
一心不乱にバーベルを持ち上げるエンジを驚かせないように近寄りながら、歩は明るく声をかける。
「すごいねぇ、まっちょめんだ! それ何キロ?」
「……君は?」
声をかけられた先を一瞥し、エンジはゆっくりとバーベルを下す。
「えっと、どこかであったかな? いや、もしかして昨日の戦いで……」
「そうそう! 東山さんですよ。もしかして……覚えてない?」
彼女と初めて出会ったというようなエンジの反応に歩はおや、という表情を浮かべた。
「うん……アイツになってしまった時は記憶が曖昧になっちゃって。……どこか、怪我とかさせてない?」
「ううん、全然だよ! むしろエンジ君が頑張ってくれたおかげで楽で来ちゃったかな。なんちゃって♪ ……もう怪我は大丈夫なの?」
戦いの経験が少ない彼女であっても、エンジが無理をしているのは一目見て分かった。未だ包帯が取れていない腕や胸元が取り立てて痛々しい
「そんなこと、気にしている暇はないよ」
しかし、エンジは心配そうに小首をかしげる歩から顔を背け、離れた位置にある器具の元に向かおうとする。しかし、そんな彼の手を歩がヒシっと掴んだ。
「待って! ……ね、ちょっと私と運動しようよ、運動! こう見えても体力には結構自信あるんだー。あっ、トレーニングじゃなくて運動ね! 散歩とか、ランニングとか!」
早口に捲し立てて、エンジを引き留める歩。
そんな彼女の必死さが通じたのか、はたまた同年代の女性に対する免疫が少ないからか、エンジはその手を振り払う事も出来ずドギマギとしてしまう。
と、そんな時。
「軽いランニングで体をほぐすのも良いですね。休むこともトレーニングのうち。それ以上やったら体壊しますよ?」
新たに現れた女性が2人の間に割って入った。
「初めまして、私はアスカ・ユークレース。猟兵の1人です。よかったら私もランニングにご一緒してもいいでしょうか?」
丁寧な物腰でそう言うアスカ・ユークレース(電子の射手・f03928)までランニングを勧めてきたら、女性に対して強気に出ることの出来ないエンジにはもう成す術はなく、そのまま2人に引っ張られるようにして外に向かうのであった。
「う~ん、やっぱり走るのって気持ちいいね。今日もお天気でよかった!」
「そうですね、とっても平和です」
ジムから程近い所にある公園で軽めのランニングに精を出す3人。
しかし、エンジの表情は浮かない。
「気乗り、しないですか? よかったら、あなたが何故そうまでして一人の力に拘るのか、理由を聞いてもいいかしら?」
そんな彼の様子にいち早く気づいたアスカが、ランニングのペースを緩める。
「……昨日の俺の姿を知っているのなら、隠し立ては出来ない、よな。分かった、話すよ。……怖いんだ、俺は」
俯き気味に走っていたエンジは、意を決し、か細く震えた声で語りだした。
誰にも明かしたことのない、背負ってきた秘密を。
「幼いころはヒーローを夢見てた。大人になったら弱い人々を守りたい……いや、違うな。強くなって、孤児だった俺を馬鹿にした奴らを見返したいなんて考える、どこにでもいる馬鹿な子供だった」
自嘲気味に頬を歪めて訂正し、彼は自身の転機となった過去のとある出来事を回想する。
それは彼が思う正に人生最悪の日であった。
「でも、ある日突然、孤児院から貰われて、研究所でよく分からない実験のモルモットにされたんだ。そして気づいた時には頭の中にもう一人の俺がいた。そいつは隙あらば俺を食い破って外に出てこようと暴れるんだ。それは捨てられた今も変わらない。出てきたら最後……奴は気が済むまで、壊す。あの研究所も、ヴィランも、街も、やっと見つかりかけた守りたい物も、全て壊しつくそうとする」
気づけば、エンジの脚は完全に止まっていた。
そして振り絞るように言葉を紡ぐ口元が、少しずつ熱を帯びていく。
「俺は、アイツに勝たなくちゃいけないんだ! アイツを永遠に封じ込めておけるようにっ! ……それが出来るのは俺だけ、だから」
すべてを語り終えたのか、エンジは再び歩き出した。しかし、その歩調は弱弱しい。
他人からの拒絶を恐れ、今までずっと隠してきた秘密を暴露したのだから無理もない。
そう思うアスカであったが、しかし彼女はどうしても伝えなければなら無いことがあった。
「エンジ、いえヒーロー・レッドバーニア。あなたは少しだけ間違っています」
エンジの前に先回りして、真正面から彼の目を見据えるアスカ。
その宝石のような青い瞳に浮かんだ悲しみと怒りを綯交ぜにした色に、エンジもまた脚を止めた。
「確かに、それはあなた自身にしか出来ない戦いかもしれません。でも、あなたの強くなる理由は、本当にそれだけなんですか? 弱い人々を守りたい、その言葉こそ本当のあなたの夢なのではないですか?」
「…………覚えてないよ」
長く沈黙し、やっと口をついたのはそんな一言だけ。
そんな自分の不甲斐なさがまた腹立たしく、エンジは握り拳が熱くなるほど掌に指を食い込ませた。
しかし不意に、別の温もりが彼の手を包みこむ。
「ごめんね。私はずっとふつーに生きてきたからさ。エンジくんの気持ちの全部を分かってあげることは出来ないと思う。でも、悩み事は誰かに話すのが一番! エンジくんが落ち着いた時でいいから、また、悩みを聞かせてよ。その時まで私も答えをみつけるから。だって私達もう友達だもんね!……ね!」
エンジの拳を両手で包み込んで、必死に言葉を紡ぐ歩。
想いを汲みとってあげられないことの悔しさに、僅かに瞳を潤ませる彼女の姿に、エンジは凝り固まっていた心が少しだけ解れていくのを感じた。
「なんでも一人でやる必要はないと思いますよ。一人でも誰にも負けないくらい強くなるなんて、猟兵でも無理。例えば私は近接が苦手なので得意な人に任せていますし」
柔らかい口調に戻ったアスカが、イタズラっぽい笑みを浮かべ、歩の逆側に立ってエンジの拳に掌を重ねる。
歩を倣っての行動であったが、今は言葉よりも暖かな行動で示す方が正しいように思えた。
「力も心も、誰かと一緒にいた方が一人よりもずっと強くなれる。人を頼れる強さというのもあるのですよ?」
そう言って微笑みかけるアスカであったが、ふとエンジの顔がトルクオーバーに変身してしまったかと思う程真っ赤に染まっていることに気が付いた。
2人の美少女に左右から手を握られるという初めてすぎる体験に、彼の心臓の原動機は張り裂けそうなほど高速回転していたのだ。
そして遂にエンジは2人の手を振り払い走り出してしまう。
「ああっ! もしかして怒らせちゃった、かな?」
「いえ、そういう訳ではないと思いますけど……。もう少し遠くから見守ってあげましょう。彼がなんのために強くなるのか、その答えに辿りつくまで、ね」
見れば、エンジは既に目視できない程遠くまで全力疾走で走り去っていた。
そんな彼に声援を送る街の人々の声もまた温かく。彼が真に戦う理由を見つけるのはそう遠くない、そう確信するアスカであった
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
アレク・アドレーヌ
【選択:WIZ】
一見鍛錬に励み自分が強くなりたいと思い行ってるだろうがその実お前さんは『何か』から目を背けていないか?少なくとも俺にはそう見える
…少し『とあるヒーロー』の話をしてやろう。
そのヒーローは実力はまぁそれほどでもなかったが人一倍に正義感が強かった。若さゆえともいうべきかヒーローとして、一人前なんだと認めてほしいからか焦りや不安で空回りしていたもんだ。
…だけどな。そんなとあるヒーローもある時気づいたのさ。『自分に今足りないもの、受け入れれず目を背けていたもの』ってのをな。
お前さんが何を認めたくないのかはわからんが一つだけ言えるのは『何か』だってお前さん自身だって事だ。そこを否定するな
2人の少女から逃げるように駆けだしたエンジは、やっとのことでジムの前まで戻ってきた。
気恥ずかしさを紛らわす為にずっと全力疾走をして来たからか、体中の筋肉に乳酸が溜まり、既に息も絶え絶えだ。
と、そんな彼に何処からともなく声がかけられる。
「随分と無茶な走り込みだな。まだ傷も癒えきっていないだろうに」
その声が聞こえたのは上から。
見上げれば、ジムの玄関口の上に見覚えのある緑色のヒーローが立っていた。
「あなたはあの時の……」
「自己紹介がまだだったな。俺はアレク・アドレーヌ。まあ、お前の先輩みたいなものだ」
緑色の生体鎧に白い仮面。そしてなにより風に靡く紅いマフラーが彼の正体を物語る。
「という事は、あなたもこの世界のヒーロー?」
「まあ、そんなところだ。それだけじゃないがな」
そう言うとアレクは地面に飛び降り、エンジの目の前に着地する。
「とりあえずお前はもう帰れ。次こそ万全で戦えるよう傷を癒すのもヒーローの務めだ」
エンジの肩に堅い装甲に包まれた手を置きながら、アレクは厳しくも温かい先輩然とした言葉を告げる。
しかし、エンジはその手を振り払うと、白い仮面を真正面から睨み返した。
「嫌です。あなたも見たでしょう? 俺は『アイツ』に負けないよう、もっと強くならなくちゃいけない。俺一人の力で戦えるだけの力を手に入れなくちゃいけないんだ!」
その目に映るのは熱い闘志。そして、それを塗りつぶすほどの焦燥感。
ともすれば道を踏み外してしまいそうな危うさをも感じさせる、暗い炎であった。
「そもそも、あなたは俺に説教をするためだけにここに来たんですか? だとしたら随分と暇人なんですね。俺に、お節介は必要ありません」
熱くなった心のままに言葉を並べ立てるエンジ。
そんな彼に、アレクは思わず笑みがこぼれた。
「……ふふっ」
決して嘲笑の類ではない。エンジの姿に感じたのは、懐かしさだ。
「な、何がおかしいんですか!」
「いや、すまない。ただ余りにそっくりだったから、面白くなってしまってな。……昔いたのさ。お前のように内なる『何か』から目を背けて、必死に鍛錬を積むヒーローが」
正に立て板に水といった具合に、朗らかに笑うアレクの姿に、エンジは脱力する。
どれだけ強くなれば彼のように心の余裕を保てるのだろう、などと自己嫌悪を抱きながらも、彼の言う自分にそっくりなヒーローの顛末に興味が沸いたのも事実であった。
「気になるか? なら、1つ昔話をしてやろう。とあるヒーローの話だ」
そんなエンジの雰囲気の変化に気付いたアレクは、思考を彼方に向ける。
それは、然程遠くない過去の記憶だ。
「そのヒーローは実力はまぁそれほどでもなかったが、人一倍に正義感が強かった。若さ故とも言うべきか、ヒーローとして一人前だと認めてほしいからか、焦りや不安で空回りしていたもんだ」
なるほど、確かに似ている。
昔話に耳を傾けながら、エンジはその『とあるヒーロー』の心の内に親近感を抱いていた。
しかし、それよりも気になったのは、それを語るアレクの雰囲気の変化だった。
「……だけどな。そんなとあるヒーローもある時気づいたのさ。『自分に今足りないもの、受け入れれず目を背けていたもの』ってのをな」
アレクの言葉尻から感じられる自嘲の色は、昔見聞きした語り草を伝えるというよりも、まるで自身の過去を懐かしむかのようで、エンジは思わず聞き入ってしまう。
しかし、そこで話しは途切れ、二人の間に静寂が屯する。
そうして数拍置いてから、アレクは再び仮面越しにエンジの顔を覗き込んだ。
「お前さんが何を認めたくないのかは分からんが、一つだけ言えるのは、その『何か』だってお前さん自身だって事だ。自分だけは、それを否定してやるなよ」
唐突に記憶の波間から現代に戻ってきたアレクは、エンジを見つめ、その肩に手を添える。
「もしかしたら、その『何か』はお前に受け入れて欲しくて荒ぶっているのかもな。強者は孤独……力ってのは、案外寂しがり屋なものだからな。なら、最も近くにいる奴くらいは、それと向き合ってやっても良いんじゃないか?」
再び肩に置かれた手から感じるのは、外骨格越しには伝わるはずのない暖かさ。
本来なら受け入れ難いようなその言葉であったが、エンジはどうしてか異を唱えることが出来なかった。
今、この緑色のヒーローは仮面の下でどんな表情を浮かべているのだろうか。
「もしかして……それは、あなたの?」
「さあ、どうだろうな。おっと、長話が過ぎた。俺はパトロールに戻る」
肩に置いた手でポンポンと叩き、アレクはエンジとすれ違って大通りに面する道に向かう。
「お前が気が済むまで『回復』するまでは、俺がこの街の面倒を見ておく。だからまあ、そこは安心しろ。あとさっきお前が言っていた言葉だが、一つだけ訂正させてくれ。俺は暇人じゃない。そしてお節介もヒーローの仕事の内だ!」
振り返ることなくそう告げると、アレクは跳躍し街の空に消えていく。
彼が語った昔話の真意はなんだったのか。その全てを掴み切ることは出来なかったが、しかしエンジの心は晴れやかだった。
「目を背けていたものを受け入れろ、か。そうしたら、俺もあの人みたいに……」
ビルを蹴って更に高く跳びあがり、瞬く間に遠ざかっていくヒーロー。
空の青さによく映えるその緑色は、彼の心にしかと焼き付いていた。
「よし、やるか!」
アレクの姿が完全に見えなくなるまで空を眺めていたエンジは、深呼吸の後、高らかに声を上げて振り返る。
そして新たな明るい炎が灯った瞳を輝かせると、少し軽くなった肩を回しながらジムの扉をくぐるのであった。
大成功
🔵🔵🔵
支倉・新兵
【SPD】
推測は大体正解っぽいなぁ
別人格は勿論厄介だけど…そんな事より背負込んで周囲を見られない…仲間にも街の人々にも誰にも頼れてないのが一番の問題のように見える
…多分もう一人の彼…トルクオーバーに対しても
…接触は直接会うのが筋、か
弁も立つ訳でなし何より狙撃屋的には落着かないけど…狙撃同様安全圏から説教…なんて虫が良すぎる
面と向かい、改めて名乗った上で彼と話そう
…とは言え俺が指摘するまでもなく他にも言われてそうだし、言葉で理解るなら彼も苦労はしない、か
簡潔にだけ伝えれば後は言葉より…彼にもう少し協力・共闘を申出よう
巻込む、って拒絶するかもしれないが…少なくとも狙撃主(おれ)にその心配はいらない
セツナ・アネモネ
……なるほど。(資料を流し見して)
なんだ、力ならあるじゃない。
アタシは……吸血鬼を狩るために、吸血鬼の力を使う。
ある力を使わない手はないよ、レッドバーニア。
アンタの力がどういう物か、詳しくは分からないけれど……もしも制御できたなら、それは間違いなく、アンタ自身の強さだ。
ま、とりあえず……コーヒー、奢ってあげるよ。
特訓相手くらいならいつでも引き受けるから……暴走した時は容赦なく止めてあげるし、ね。
サンディ・ノックス
バーニアさんを探す傍らトレーニングを体験
…機械操作も鍛練も慣れてなくて難しい
彼を見つけたら堅実な鍛練や体つきを褒める
素直に受け取ってくれるかな
なぜそんなに頑張るの?
力があるのにまだ鍛練って理由があるのかなって思って
彼の話は頷きつつ聞き
彼の立場と気持ちを想像しながら時々肯定の言葉を返す
俺の考えも伝えるけど彼の様子を見て追い詰めていそうなら途中でも切り上げる
…気持ちはわかるつもり
俺の力も事あるごとに振り回してくるから
でも『もうひとり』を抑え込めば解決とは思えない
もうひとりも一人のヒト
他人って思い通りにできないじゃない?
単に抑えこもうとすると余計に反発される気がする
仕事の相棒扱いするのは難しい、かな
一方その頃、サンディ・ノックスとセツナ・アネモネは連れ立ってエンジが通うジムに訪れていた。
レッドバーニアがトルクオーバーに変身した様子を見ていた2人は、共闘の後に話し合い、彼の様子を見に行くために再び行動を共にすることにしたのだ。
「でもまさかレッドバーニアが留守とは思わなかったね。さっきまではいたみたいだけど」
「女の子にっ、引っ張られて、ランニングに行ったんだっけ? 他の猟兵に、先を越されちゃった、のかもねっ!……ふぅ、これで30回。結構効くなぁ。これを一日に何セットもやるのは大変だなぁ」
暫く待てば帰ってくるだろうと考えた2人が選んだ暇つぶし。それはジムの体験であった。
折角だからと普段は使う機会のないトレーニングマシンの部屋で汗を流す。
ちなみに言いだしっぺであるサンディが行っているのはラッドプルダウン。広背筋と上腕筋などを鍛えるマシントレーニングだ。
「普通はもっと軽いウェイトでやるものだと思うよ。アタシ達にはこれくらいじゃないと筋トレにはならないんだけどっ! ……はい、ノルマ達成」
タオルで汗を拭くサンディの横では、セツナがグリモア猟兵から支給された資料を片手間に読みながらレッグカールを行っている。これは大腿筋などハムストリングスを鍛えるトレーニングで、今は俯せになって行うライイング・レッグカールのマシンを使用していた。
「それにしても、レッドバーニア……源藤・エンジだっけ? てっきり自分の非力さに悩んでいるのだとばかり思っていたけど違うみたいね。力なら十分にあるじゃない」
「そう単純な話しでもないみたいだけどね。俺は彼の気持ち、少し分かるな。俺の力も事ある事に俺のことを振り回してくるからさ」
己の中に住まうどす黒い力と悪意の奔流を絶えず感じながら、サンディはエンジの心中を想像した。
自我を蝕むほどの荒ぶる力を眠らせているのに、それに対抗しようと藻掻き、正義のヒーローであり続けようとするその心は如何様なものなのか。
「でも、セツナさんはあまり心配してなさそうだね。それにしては素直に一緒に来てくれたけど」
「燻ってるのを見るのが好きじゃないだけだよ。バーニアに言いたい事があるのは一緒だし、それはあそこにいるアイツも同じだと思うけど?」
マシーンから立ち上がり、トレーニングルームの隅の方に目を向けるセツナ。
そこにあったのは、一人で黙々とトレーニングを行う支倉・新兵の姿だった。
ちなみに彼が行っているのはロータリートーソ。主に腹斜筋を鍛えるトレーニングであり、狙撃時の姿勢保持に必要な体幹を強化する事が出来る。
「いつまで知らん顔で1人でいるつもり? とっくに気づいてるから」
セツナの呼びかけにギクっと体を強張らせた新兵は、トレーニングを辞め、おずおずと2人の元に近寄ってくる。
「いや、俺は口下手だからさ。それにジムに来たはいいけどもう先約もいたみたいだし。2人で事足りるならいいかなと思ってその、様子見を……」
居心地悪げに頬を掻く新兵の様子に思わず肩をすくめるセツナ。
「でも心配してないとここまで来ないでしょ? 非番の時くらいは正面きって向き合ってみなよ」
「たははは、手厳しいな。まあ元はそのつもりだったから、頑張ってみますか」
そんなこんなで合流を果たした3人であったが、それから程なくして目当ての人物が現れた。
「あれ、今日はお客さんが多い日だな。貴方達も俺に会いに来たんですか?」
新たな目標を得たことで闘志を燃やしていた源藤・エンジは、トレーニングルームで待ち受けていた見覚えのある2人に気付き、微かに笑みを浮かべる。
心なしか態度まで明るくなっているのは、彼の思いつめていた悩みが猟兵達との交流により少しずつ解きほぐされてきた証拠でもあった。
「やあ、また会えたねバーニアさん。今日もトレーニング? 俺もさっきやってみたけど、慣れてないから苦戦しちゃったよ」
そんなエンジにサンディは歩み寄り穏やかに話しかける。
「ひきかえ、バーニアさんは凄いね。そんなに鍛え上げていて、もしかしたら筋力なら俺よりも上かもしれないよ?」
「いや、俺なんて力はヒーローの中では平均的だし、それになにより俺の課題は心の方にあるみたいだから……。でもありがとう。猟兵の人にそう言ってもらえると、少し自信がつく」
照れくさそうに頬を掻くエンジの姿に、サンディは内心でほっと胸をなでおろした。
もしも彼が深く思い詰めていて、他人からの賞賛も感謝も受け取れないほどに心を閉ざしていたらどうしようかと苦慮していたのだ。
「えっと、俺は一応初めましてだな。昨日は驚かせてゴメン。狙撃手の支倉・新兵だよ」
一方、少しぎこちない笑みを浮かべる新兵。
普段は安全圏からの狙撃を行う彼にとって、やはり面と向かってのコミュニケーションは少しおっかなびっくりなところがあるようだ。
「ああ、あなたが! 驚いたけど、でも助かりました。俺じゃあの敵の擬態を見抜くことは出来なかった」
「そこも得手不得手だよ。ヒーローだって助け合い、でしょ? 俺なら戦う時も遠くにいるから、君の力に巻き込まれる心配もないし。また何かあったら頼ってほしいかな」
新兵のその言葉にエンジは一瞬だけ表情を曇らせる。
もう一人の自分と向き合わなければ。そう考えを改めたばかりの彼であったが、やはり叶う事ならあの力に頼りたくはない。
「…………できれば、アタシもあまり見せたくはないんだけどね」
そんな彼の表情の変化に気付いたセツナは、エンジの前に左手を差し出して見せた。
その手を見つめ、握手だろうかと左手を握ろうとしたエンジの目の前で、セツナの爪が突然鋭く伸び、黒く硬質化する。
目の前で唐突におきた初めて見る自分以外の者の変異に思わず固まるエンジ。しかし、セツナの金色の瞳は理性の色を失うことなく、冷静に彼に向けて語り掛ける。
「アタシは……吸血鬼を狩るために、吸血鬼の力を使う。ある力を使わない手はないよ、レッドバーニア。この力がアンタと似ているかどうかは分からないけど、使いこなせる様になればそれは間違いなく、アンタ自身の強さだ」
すぐに元の柔らかい人間の手に戻したセツナは、トレーニングウェアの腰ポケットにその手をしまい込み、明後日の方向を向いてしまった。
「ま、とりあえず……コーヒー、奢ってあげるよ」
少し喋りすぎたのだろう。クールな表情の隅に気恥ずかしさを浮かべ、そそくさと自販機に向けて歩き去っていくセツナ。
そんな彼女の新しい一面を見て、サンディはクスクスと笑った。
「セツナさん、やっぱり心配していたんじゃないか。素直じゃないなぁ。でも俺も彼女と同感だよ」
エンジと並んで彼女を見送りながら、サンディはその笑みに少し寂し気な色を浮かべる。
同じく眠れる力に振り回されて来た者として、エンジが抱えているジレンマは理解できるつもりだ。
「君の中の『もうひとり』も一人のヒト。単に抑えこもうとすると余計に反発される気がする」
そして、一たび自分と似ていると思ってしまったからこそ、彼が昔の己と同じ過ちを繰り返す姿は見たくないという思いは更に強くなる。
「でも、強すぎる力と荒ぶる魂を持っていても、幸いな事に同じヒトなんだ。だからきっと制御、いや、分かり合うことも出来るはず。例えばまずは仕事の相棒として向き合ってあげるのは難しい、かな」
「トルクオーバーが、相棒……」
そんな事は考えもしなかった。
しかし、相棒という言葉が口をついた瞬間に、心臓の奥で何か熱いものが、ドクン、と脈動したのを感じた。
「トルク……?」
「そう、力に対する恐れは誰にだって必要だけど、怯えちゃいけないよね」
サンディの言葉に新兵も深く頷く。
そして心臓に手を当ててなにやら思案するエンジの姿を見つめ、新兵も決意を新たにするのであった。
(次にまたレッドバーニアに脅威が迫るときは、俺も力をかそう。戦場こそが狙撃手の舞台。彼の為に放つ銃弾が、そのときは彼ともう一人の彼の新たな戦いを祝う祝砲となるように)
レッドバーニアとトルクオーバー。2人が今後どのような関係を築き上げていくかはまだ誰にも分からない。
しかし、猟兵達との出会いは確実に彼の心に変化を与えのであった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『サクリファイス』
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POW : 犠牲の対価
自身の【剛力と存在】を代償に、【その場にいたもの同士】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【どちらかが倒れるま】で戦う。
SPD : 犠牲の対価
自身の【技巧と存在】を代償に、【その場にいたもの同士】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【どちらかが倒れるま】で戦う。
WIZ : 犠牲の対価
自身の【叡智と存在】を代償に、【その場にいたもの同士】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【どちらかが倒れるま】で戦う。
イラスト:麻風
👑11
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「アレク・アドレーヌ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
【お知らせ】
ただいま、間章の執筆中です。
投稿は9/8(日)を予定しています。
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「しゅっ! しゅっ! はあっ!!」
その日も源藤・エンジはトレーニングに励んでいた。
ジムを出た後はパトロールを兼ねて、シャドウボクシングを交えながら夜遅くまでランニング。
馴染みのトレーニーやヒーロー達がやりすぎではないかと心配する程の、いつもと変わらないトレーニングメニューだ。
いつもと違う点があるとすれば、それは彼の表情だろうか。
猟兵達との出会いから新たな目標を得たエンジの表情は晴れやかで、夜の闇を打ち払うように打ち出される拳は以前にも増して素早く重い。
(いつかアイツを……トルクオーバーを受け入れられるように、俺はもっと強くならないと!)
捩じ伏せる為ではなく、受け入れる為に。目指す『強さ』という境地は同じでも、それに取り組む心持ちが違えば、自ずと肩の力は抜けるもの。
エンジはこの短期間で自身でも気づかぬ内に、飛躍的なパワーアップを成し遂げていた。
しかし、悲しいかな、強くなったが故に彼は目をつけられてしまった。
より強き力を望み、幽けき海から這い上がりし狂気に。
疎らに立ち並んだ街灯が赤茶けた煉瓦を照らす。
「お前……いいねえ」
エンジがその声を聞いたのは、この街でも指折りに古い倉庫街に足を踏み入れた瞬間。
その声音は声の高い男のようで、声の低い女のようで、それでいて子供のように無邪気で、老人のように皺枯れて……まさしく正体不明としか形容できない。
そして何より異質なのは、その声がエンジの耳元で囁かれた事であった。
シャドウボクシングを行なっていたとはいえ、今はパトロール中。警戒を解いたつもりは一切なかった。
だがしかし、それは確かにそこにいる。
「おやぁ、お前、ひとりじゃないね? 中にもう1人飼ってるだろ? それも、とびきり短気で、獰猛で、強ぉぉいやつ」
正体不明の何かの微かな吐息が、夜風で冷えた耳を生温く包み込む。
「益々いいねぇ気に入った。お前は贄に相応しい。ワタシが贄となるに相応しい」
抵抗しなくては。戦わなくては。逃げなくては。
脳が必至に体に指令を送るが、しかし奴が喋る度にエンジの体は麻痺していき、やがて思考すらも覚束ない微睡みの中へと引き摺り込まれていく。
「さあ、共に行こう。お前こそ破壊のための哀れな贄よ。贄のための偉大なる破壊よ。さあさあ共に壊そう! 我らサクリファイスの名の下に!」
トルクオーバーが倉庫街で暴れている。
猟兵達がその報せを受けたのは、街が眠りにつこうかという時間帯。
第一発見者は偶然倉庫街付近をパトロールしていたベテランヒーローだった。
彼曰く、謎の影がレッドバーニアにまとわりついたかと思った次の瞬間には、バーニアはトルクオーバーに変身して倉庫群を滅茶苦茶に破壊し始めたのだと言う。
そして自分1人では、いや、並みのヒーローでは手に負えないと直感したはベテランヒーロー直ぐに撤退し、猟兵達に救援を求めたのだ。
猟兵達が倉庫街に辿り着いた時、そこあったのは瓦礫の山と、荒れ狂うトルクオーバーの姿。
しかし彼らは気づいた。トルクオーバーは、いやレッドバーニアは戦っている。
トルクオーバーが民家のない倉庫街から飛び出さないよう、バーニアは必死に破壊衝動に耐えているのだ。
「おやおや、案外しぶとい、ね。モタモタしてるから、無粋で物騒で不躾な輩が来ちゃったじゃないか」
見れば、トルクオーバーの背後には紫紺のボロ切れを纏った亡霊のようなオブリビオンが取り憑いていた。
奴こそがレッドバーニアを狂気に陥れた元凶に違いない。
「支配を強めてあげる。さあ赤き獣よ、力を解き放て! 早く早く早く!」
そして亡霊ーサクリファイスの絶叫を耳にしたトルクオーバーは、血走った目で猟兵達を睨みつけると、彼らに向けて一心不乱に襲いかかるのであった。
●
第2章までの🔴を規定数以下に抑える事ができました。
これにより、心を開き成長したレッドバーニアはトルクオーバーの破壊衝動をある程度抑えることが出来るようになっています。
第3章はオブリビオン『サクリファイス』との戦闘になります。
サクリファイスはトルクオーバーを操って攻撃をしてきます。トルクオーバーの攻撃をいなしつつ、サクリファイスを攻撃するのがベターでしょう。
またトルクオーバーを弱らせるか、必死に抗うレッドバーニアを奮い立たせるような行動をとった場合は何か戦況に変化が見られるかもしれません。
支倉・新兵
倉庫街から離れた位置に陣取り狙撃体勢
身を隠し迷彩使用(目立たない、迷彩)、索敵はドローンや戦場内の監視カメラ等をジャックし(ハッキング、情報収集、暗視、視力)、デバイスで弾道計算の後UCでの狙撃
…同士討ちの能力はトルクオーバーに対してだけじゃなさそうだ
戦場外から俯瞰出来るアドバンテージを生かし味方へのアシスト…同士討ちの阻害やトルクオーバーの意識を逸らすような立回り
(援護射撃・スナイパー・部位破壊・おびき寄せ・戦闘知識)
勿論戦況次第でオブリビオンへ直接狙撃や…場合によってはトルクオーバーの無力化も視野に入れるけど
出来ればそれより彼…いや、『彼ら』の門出を飾る道を開く為の援護射撃と行きたい所だね
セツナ・アネモネ
【WIZ】
ちょうどいい。エンジ……いや、トルクオーバー。
「お勉強」の時間だよ。
サクリファイスを狩れればそれが一番いいけれど……そこは他の面子に任せよう。
アタシはコイツを抑えるのに専念させてもらう。
まずは『吸血鬼の舞』を発動。
……さぁ、力比べといこうか、トルク?
敢えて真正面から、小細工なしでぶつかるよ。
……ちょっと無茶かも知れないけど、そこは捨て身って奴だ。
今回は武器もなし、正真正銘、吸血鬼の力だけをぶつけてやる。
東山・歩
エンジくん……待ってて、私がなんとか……なんとかする!
とりあえず、何をするにもエンジくんの動きを止めなきゃね!
……と、言うわけで!『ハムさん召喚!』
頑張れハムさん、ちょっと乱暴にしてもいいよ!
……エンジくん、君の勇気、私にもちょっと分けてね……
私だって猟兵なんだから、戦ってみせるよ!
……剣とか持ったこともないけどね!!細くて折れそう……!
アスカ・ユークレース
レッドバーニア……人には誰でも、もう一人の自分がいるの
私も、貴方も同じ
貴方は偶々そのもう一人の癖が強いだけ
私達がついています、もう少しだけ頑張れますか?
どちらも同じ貴方なのだから
真の姿解放
体中に電子回路の紋様が浮かぶ
瓦礫を足場にしてUCで撹乱しつつクイックドロウとスナイパーでヒット&アウェイ
火の玉のトラップに誘い込む
ヒーローには……基本回避か防御で対応、最悪流体金属での捕獲も考えておく
無粋で物騒で不躾で結構
強くなろうと足掻いてる奴の邪魔してんじゃないわよ……!
アドリブ、連携可
サンディ・ノックス
今の状況も『かつて力が命じるままに守るべき人々を踏みにじった過去』を連想してしまう
でも抗うヒトに声をかける者が揺らげばきっと声は届かない
彼らのことに集中しよう
真の姿発現(特徴は真の姿イラスト参照願います)
敵が操っているだけなら行動の精度は落ちているかも
よく観察して回避を試みながらバーニアさんに声をかける
ありがとう、今までよく頑張ったね
これから助ける、もう少しだよ
トルクさんにも声をかける
もう貴方を使わせない
もし利用されたと怒っていても今はその気持ちを汲みきれない、ごめん
【解放・小夜】発動
観察は攻撃を躱すためだけにしていたと敵が思い込んでいたらいいな
敵に朔を投擲、黒剣でしっかり刻むために拘束したい
アレク・アドレーヌ
…よりによって厄介な奴に目を付けられたな。 『あいつ』は並み居るオブリビオンの中でもイレギュラーすぎる奴だからな。…正直な話ヒーローズアースにいる全ヒーローが協力しても捕らえることすらできなかった。…だからこそ未曽有のテロが起こったが故に多くの人があいつの名前を知っているわけだが。
まぁ『とあるヒーロー』と同じ道を辿るってのは何の因果か、いや運命かね…
とにかく助けるが厄介なのはあいつのUCだ。今回とは使い方が多いに異なるが本来の使い方をされたら下手したら全員奴と戦う前に味方同士で戦って倒されかねん。だからこそ…『本気』で行く。お前ら腹括れよ。
…思いっきり蹴り飛ばす。
●
「よりによって厄介な奴に目を付けられたな」
トルクオーバーの背後に漂う陰に気付いたアレク・アドレーヌは仮面の下から苦虫を噛み潰したような声を漏らした。
「アレクさんはヒーローズアース出身だったよね。あのオブリビオンを知ってるの?」
「奴はサクリファイス。近年の犯罪史を探せばすぐに見つかる程の大犯罪者だ。……正直な話、ヒーローズアースにいる全ヒーローが協力しても捕らえることすらできなかった。だからこそ未曽有のテロが起こったが故に、多くの人があいつの名前を知っているわけだが」
質問を投げかけた東山・歩に振り向くことなく答えを返すアレク。
仮面に覆われた表情は定かではないが、その声からは悔しの色がありありと感じられる。
「とにかく厄介なのがあいつの能力だ。今はトルクオーバーを使役する為だけに使っているが、本来の使い方をされたら、下手をしたら全員奴と戦う前に味方同士で戦って倒されかねん」
もしも共に戦う仲間が敵の手に落ちたら。最悪、サクリファイスの能力に対して知識がある自分まで洗脳されてしまったら、その時はこの街は終わりだ。
「だからこそ……『本気』で行く。お前ら腹括れよ」
全身全霊の力とスピードでもって叩き潰す。
その為の力は、既にこの身に蓄えてあるのだから。
「そんなの、言うまでもありませんよ。俺も彼を救いたい。だから出し惜しみは、しない」
「エンジ……いや、トルクオーバーはアタシに任せて」
「力を合わせましょう。力も心も、誰かと一緒にいた方が一人よりもずっと強くなれる……そう彼に教えてしまいましたしね。お手本を見せないと」
決死の覚悟を決めるアレクの横に、サンディ・ノックス、セツナ・アネモネ・アスカ・ユークレースの3人が並ぶ。
彼らの瞳に宿る決意とその身から溢れ出す闘志を感じ取ったアレクは、暫しの間沈黙した。
「ふふっ、物好き共め。どうなっても知らんぞ」
そして静かな笑みと共に白い仮面を顔に手をかけると、セーブしていた力を解放し全身に行き渡らせる。
瞬間、横並びに立つ4人の体が光に包まれた。翠、赤、黒、青、様々な色が明滅し、やがてそれらは一つに溶けあい陽光の如き金色となって夜の闇を照らし出す。
そしてどこからともなく飛蝗の群れが現れ、トルクオーバーとサクリファイスを翻弄したかと思えば、その群れは光に飛び込むようにして立ちどころに消えていった。
「グルゥオオオオオオ!!」
「ちっ目晦まし、いやぁ? ほぉう、これはこれは、逸材がこんなにも……」
光が消えた時、4人の猟兵の姿は一変していた。
赤い鱗に覆われた巨大な竜の尾と翼を広げ、魔王の如き黒き全身鎧に身を包むサンディ。
獣の形相で鋭い牙を剥きだし、全身から血に飢えたどす黒いオーラを立ち昇らせるセツナ。
頬や手足に青く輝く電子回路の紋様を浮かび上がらせ、幾何学模様の光をスパークさせるアスカ。
そして、その中心に立つのは飛蝗を象る緑色の戦士。仮面の下に秘められていた山吹色の複眼を燃え上がらせ、アレクは真っすぐに宿敵を見据えた。
「行くぞ!」
真の姿を解放した猟兵達の戦いが今始まる。
●
その頃、倉庫街から1つ離れたブロックにある5階建ての古アパートの上に、『狙撃猟兵』支倉・新兵の姿はあった。
「ドローン達の機動よし。カメラよし。監視カメラのハッキングも完了。これでもうあの戦場は全て俺の射程内だ」
機器の動作チェックを確認し終えた彼はコンクリートの上に身を伏せて、スナイパーライフルを構える。
「熱い戦いだね。でも、俺は冷静に。熱くなるのは銃身だけで十分さ」
先ほどのアレクによる敵の説明も仲間たちの会話も、全て通信機越しに聞こえていた。
それならば自分のすべきことは、サクリファイスによる仲間の洗脳を妨害し、アシストすることだ。
そして願わくば、
「彼……いや、『彼ら』の門出を飾る道を開く為の援護射撃と行きたい所だね」
破壊衝動のままに力を振るい、迫る猟兵達を威嚇するトルクオーバーを見やり、新兵は静かな怒りと共に頭を冴え渡らせていく。
「ん、あの子はたしかルーキーの歩ちゃん、だっけ? この戦場で彼女にできる事なんて……いや、むしろまだ非力な彼女だからこそ、この戦いのトリックスターになるのかも。なんてね」
あくまで希望的観測。根拠もない思い付きだが、どこか確信めいたそのヴィジョンに、新兵は僅かに頬を緩めた。
「弾道、入射角……オールグリーン。さあ、いくよ」
そして今宵も再び、孤独な狙撃兵の戦いが始まった。
●
「ウルルルァアアアアア!!!」
「『お勉強』の時間だよ……さぁ、力比べといこうか、トルク?」
迫り来る巨体を前にして一切怯むことなく仁王立ちで構えるセツナ。
愛用の大剣や重火器を用いず、正面から吸血鬼の力のみで立ち向かいねじ伏せる。それが『力を使いこなせ』と教えた彼女にできる、最大の実践指導であった。
「はああああっ!!」
両腕を広げてトルクの拳を受けとめたセツナの脚が地面を擦って僅かに後退する。
しかし、吹き飛ばされない。それどころか、地面に亀裂が走る程強く踏みしめて、少しずつその腕を押し返し始めたではないか。
「ぐっ……そんなもの? 力の制御が出来ていないんじゃない? アタシが前に見たアンタはそんなものじゃなかったよ!」
セツナは押し返した拳を大きく蹴り上げると、トルクオーバーの懐に飛び込み、がら空きになった顎めがけて跳びあがり渾身のアッパーを叩き込む。
並みのオブリビオンであればそのまま頭部が吹き飛ばされるほどの一撃。……しかし、トルクオーバーには通じない。
「ギャッ! ウウぅぅ…トルク、タタカウ!」
宙に浮きあがったセツナの体を瞬時に掴むと、そのまま力いっぱい地面に叩きつけるトルクオーバー。
今の一撃でセツナが意識を飛ばさずに済んだのは、彼女のアッパーを受けて僅かに脳震盪を引き起こし力が緩んでいたからだ。
「が……ぁぁ……。はっ、やる、じゃない」
負けじと睨み返すセツナであったが、その身体は痛みと衝撃による痺れで思うように動かない。そんな彼女をに止めを刺そうとトルクオーバーは巨木のような脚を振り上げる。
「頭を冷やせ!」
「させないよ。君には誰一人として殺させない」
しかし寸での所でアレクの蹴り上げとサンディの放ったワイヤーが受けとめ、ストンプ攻撃を妨害する。
さらに新兵の跳弾狙撃がもう片方の軸足に命中したことにより、完全に体勢を崩したトルクオーバーは尻餅をついて倒れ込んだ。
そして怒りの矛先が自身に移るようにと、サンディは敢えてトルクオーバーの至近距離まで近寄ると、起き上がりざまに繰り出される拳を紙一重で回避していく。
「もう貴方を使わせたりしない。もし利用されたと怒っていても、今はその気持ちを汲みきれない……ごめん」
セツナが言った通り、操られているからか彼の攻撃は依然と比べて精度に欠けている。これは即ち、トルクオーバーの中でもう一人の彼―レッドバーニアが抵抗している事に他ならない。
今ならばレッドバーニアに声を届ける事も出来るはずと考えたサンディは、反撃に出ることなくトルクオーバーのラッシュを捌き続けた。
「ありがとう、レッドバーニアさん。今までよく頑張ったね。これから助ける、もう少しだよ」
「やはり、こいつが暴れている限りサクリファイスには近づけないか。『とあるヒーロー』と同じ道を辿るってのは何の因果か、いや運命かね……」
言葉を投げかけるたびにトルクオーバーは更に動きを鈍らせる。しかし、その一方でアレクがサクリファイスに向かおうとすればトルクオーバーは瞬間的により凶暴性を増し、自身の体が壊れることも厭わず破壊の限りを尽くそうとする。
仲間が仲間を想う程に突破が困難になる。これこそがサクリファイスが過去にヒーロー達から逃げ延びることを可能にした防衛プログラムであった。
「ちっ、今も昔も変わらず反吐が出るような真似を……」
結果として、アレクは未だ攻勢に出ることが出来ず、サンディと共に嵐の如き猛攻を捌き切る他ない。それが例え、自身が過去に犯した過ちをなぞることになったとしても、彼を見捨てることなどできなかったのだ。
そして、彼らの行動の意図を汲みとったアスカもまた、レッドバーニアに向けて声を投げかける。
「レッドバーニア……人には誰でも、もう一人の自分がいるの。私も、貴方も同じ。貴方は偶々そのもう一人の癖が強いだけなんです」
声をかけつつも、見据える先は暴れるトルクオーバーの更に向こう。2人の代わりに彼を操る亡霊を引き剥がす為に、アスカは力を解放することでより精密に操ることが可能となったユーベルコードを発動する。
「私達がついています、もう少しだけ頑張れますか? 貴方ならきっとその力に打ち勝てる。だって、どちらも同じ貴方なのだから!」
反撃の一矢はこちらの手の中にある。そう確信したアスカは、電子の迷彩を身に纏い戦場を駆け抜けた。
煉瓦の瓦礫が散乱した道を意に介することなく、むしろそれらを足場にして猛スピードでサクリファイスの背後まで回り込むと、手に持ったクロスボウから不可視の矢を放つ。
「ギャアッ! 痛い……痛いいいひひひひひ! 邪魔をするな猟兵いい!」
腕に矢の一撃を受けたサクリファイスは狂ったような笑い声を上げながらも、迷彩を身に纏ったアスカを探す。
しかしそうしている内に二発、三発と次々に打ち込まれるクロスボウの攻撃を受け、サクリファイスはたまらずトルクオーバーの背後から退くこととなった。
「てやあああー!」
そんなサクリファイスの元に駆け寄る小さな影。レイピアを突き出した歩による死角からの一撃がサクリファイスの腹部を貫く。
「あ、ごめん! じゃなくて、エンジくんを苦しめた罰を受けなさい!」
本来であれば避けることなど造作もなかった筈の一撃。しかし、サクリファイスは洗脳の力を使うために己の存在と力、技、知能を著しく消耗するという欠点があった。
またサクリファイスが他の猟兵達の力に魅了され、それに劣る歩から意識を逸らしていた事も不意打ちを受けた要因であったといえる。
「エンジくん……待ってて、私がなんとか……なんとかするから!」
「ちぃっ、小賢しいわ!」
しかし、彼女の一撃は致命傷には成り得なかった。腹部を貫かれつつもサクリファイスは歩を洗脳の念波で打ち払う。
「きゃっ!?」
吹き飛ばされた歩は、そのまま無防備に地面に打ち付けられる。しかし、それよりも深刻なのは念波の効果だ。
歩は感じたことのない寒さに襲われ、次第に自我が乗っ取られていく感覚に戦慄する。
しかし、それでも尚、彼女は足掻いていた。
「……エンジくん、君の勇気、私にもちょっと分けてね……。私だって猟兵なんだから、戦ってみせるよ!」
薄れゆく意識の中で思い出すのはエンジの言葉。
いつか弱い人々を守るヒーローになりたい。
(私も、そんなヒーローになれるかな。……わかんないよ。だって、私はずっと普通に生きてきたんだもん。でもせめて、今の私に出来る事を)
「……お願いハムさん! エンジ君を、レッドバーニアを助けて!!」
歩は最後の力を振り絞ってユーベルコードを発動する。そして時空の歪みから元気よく飛び出した巨大ハムスターは、生気のない虚ろな瞳で立ち尽くす主人の姿をじっと見つめると、コクンと力強く頷いてトルクオーバーへと向き直った。
ちなみに歩は、ハムさんが勢いよく振り返った際に振るわれた尾によって頭部を強打され気絶することになった。
しかし、サクリファイスの洗脳の効果は『どちらかが倒れるまで』。これにより洗脳が解除され、サクリファイスの攻撃を無駄撃ちさせる事に成功したのだから、これこそファインプレーと言えるだろう。
一方のハムさんはサンディ、セツナ、アレクの3人と対峙するトルクオーバーに向けて、彼に比類する程の巨体を活かした突進攻撃を繰り出す。
「トルクゥゥ、タタカウ……」
突然のヘビー級の攻撃にたじろいだトルクオーバーであったが、流石にこの一撃で倒される程軟ではない。
しかしハムさんに向けて反撃しようと振り上げた拳が、突如として痙攣し、動きを止めた。
「トウヤマ、ノ、ナカマ……ゥゥゥウウ!! トルク、タタカウ、イヤダ!!」
「今だ!」
今こそが最大の好機。トルクオーバーが隙を見せるその瞬間を待っていたサンディは小夜の魔眼を見開き、彼の動きを完全に束縛する。
「手間かけさせるんじゃないよ!」
そして動きを止めたトルクオーバーの後頭部に向けてセツナが精密な跳び回し蹴りを見まい、その意識を刈り取ることに成功したのであった。
「はあ、はあ、ちょっと荒療治がすぎたね。でも、こっちはなんとかなった、かな」
「だから次はお前だ」
サンディが再び解放・小夜を発動し、同時に放った漆黒のフック付きワイヤーでサクリファイスの体を二重に拘束する。
「お前には手加減はいらない。やっぱりいいね。容赦なく痛ぶれるってのはさ」
「なぁっ!? 切り替えが早すぎやしないかぁ? これだから無粋で……」
「無粋で物騒で不躾で結構。強くなろうと足掻いてる奴の邪魔してんじゃないわよ……!」
拘束されたサクリファイスの足元が光り、次の瞬間、火の玉が地面から吹き上がりその身体を焼き焦がす。
後退する先を計算して矢を放っていたアスカが、石畳のタイルに仕込んでいたトラップに起動プログラムを送信したのだ。
「ギャアアアアアアアアアア!! 貴様らも、私の僕に……」
「おっと、そんな暇なんて与えないよ」
さらに反撃の素振りを察知した新兵が、サクリファイスを幾度となく穿ち、魔術の発動を阻害する。
「なぜだ! なぜだ何故だナゼダ! 私がこんなところで!」
「……遂に裁きを受ける時が来たな」
そして、のたうち苦しむサクリファイスの元に、アレクは全身が泡立つほどの怒気を迸らせながら歩み寄る。
積年の恨みも怒りも、その全てを最後の一撃として放とうと精神を研ぎ澄ませるアレクの心中は、自分でも驚くほど静かだった。
「お前は他人を駒として扱うことしか出来なかった。月並みなセリフだが、俺には仲間がいる。仲間の価値を見下し、踏みにじるお前に勝てる要素は、ない」
「認めないいいいいいいい!!!」
しかし、サクリファイスとて元は数多のヒーローを退けてきた歴戦のヴィラン。
その身に僅かに残った力を振り絞って拘束を力づくで振り払うと、一心不乱に空へと逃げる。
「悪あがきを。空は俺の領域だ……ん?」
サクリファイスを追って跳びあがろうとしたアレクであったが、不意に彼のマフラーが誰かに捕まれる。そして振り向けば、膝を震わせるレッドバーニア―源藤・エンジの姿がそこにあった。
「はあっ、はあっ……俺も、行きます!」
「無茶を……。いや、決着をつけようか。今にも、過去にも」
立っているのもやっとという様相のレッドバーニアであったが、その眼に宿る炎は今も熱く燃え盛っている。
ならば、彼にはまだ戦う力がある。自分には出来なかった事すらやってのけるだけの力が。
「行くぞ! 思いっきり蹴り飛ばす!」
「はい! 力を貸せ……トルクオーバー!」
掛け声高らかに必殺の飛び蹴りの構えを取った2人は天高く跳躍し、ふらふらと宙に浮かぶサクリファイスの元へと瞬く間に接近していく。
「とおおおおおおおっ!!」
「オーバーフローッ・バーニアストライク!!」
そして緑と赤、2色の閃光が夜空を貫いた。
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「本当に、もう行ってしまうんですか?」
一夜明け、事件の後始末を終えた猟兵達は帰路に就こうとしていた。
去って行ってしまう彼らを心細げに見送るエンジであったが、そんな彼に心配の目を向ける者はもう誰もいない。
「エンジくんが無事で、本当に、本当に良かったよ! 私も君みたいにもっともっともーっと頑張るから、また会おうね!」
「アンタはもう力を使いこなして見せたじゃないか。なら、アタシから言う事はなにもないよ」
「君が俺と同じ過ちを犯さずにすんで、本当によかった。少しだけだけど、俺も気が楽になったよ。ありがとう」
「正直、この世界は俺達が助けなくても凄いヒーローがいっぱいいるし、大丈夫なんじゃないかな?」
「そうかもしれませんが、でも私達も負けてはいられないでしょう? この世界からだってまだまだ学ぶことがあるんですし」
一人、また一人とワームホールをくぐり去っていく猟兵達。
そして最後に残った仮面のヒーローもまた、一度この戦いを報告する為に立ち去ろうとしていた。
エンジの横を無言で通り過ぎた彼であったが、ワームホールに入る直前で歩みを止め、振り返ることなくエンジに向けて語り掛ける。
「胸を張れ。お前は、誰よりも強く真っすぐなヒーローになる」
そして、肩越しにサムズアップを見せると一足でワームホールの奥へと消えていく。
「……はい!!」
もう、荒ぶる巨人の声は聞こえない。
そこにあるのは、共に強くあろうという、熱く猛々しい意志だけだ。
残されたエンジの表情は、頭上に広がる青空に負けないほど晴れやかであった。
大成功
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最終結果:成功
完成日:2019年09月13日
宿敵
『サクリファイス』
を撃破!
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